ディミトリス・カラミツォス−ジラス新駐日ギリシャ大使に聞く
Q:今回が初来日とお聞きしていますが、これまでの経歴を聞かせていただけますか。
はい、私はギリシャのキャリア外交官として働いてきました。もともと外交官の息子でもありますが、初めは異なる道を選び、弁護士としてのキャリアをスタートしました。ギリシャの名のある法律事務所に一年半務めたのですが、私には弁護士の仕事は向いていないと実感しました。それから、ギリシャの外務省でのキャリアを作ることにしました。1984年に外務省に入省したので、今年で38年目になります。
東京に来る前は、駐英ギリシャ大使(2016~2020年)として務めていました。ちょうどブレグジットの期間にあたり、これは一人のヨーロッパ人としては、非常に興味深い時期に滞在していたと言えます。それ以前は、ニューヨークにある国連本部で大使を務めていました。加えて、アメリカ(カルフォルニア総領事)、ブルガリア、そしてアパルトヘイトから民主化へ移行するという重要な期間に南アフリカでも勤務しました。アテネの外務省で海外勤務の合間には、EU担当の局長など、他のポストも担当していました。
外交官は厳密に述べれば、一国における大使や参事官のように、本国と駐在国という二国間関係において任務を果たすタイプと、多国間組織において国を代表するタイプの二種類があります。私は国連で二回、ブリュッセルの欧州理事会にも長い間在籍したので、どちらかと言えば、後者側のタイプに属すると思います。駐英大使という前職、そして現在の東京でのポストは、対ギリシャにとって大変重要です。駐日ギリシャ大使に任命されたことは私には大変光栄なことであり、またこの場にいることにも大変感激しています。今回が私にとって日本への初めての訪問なのですから!
私の妻は写真家で、街で見かける若者の文化など、ストリート写真を撮影するために世界中を旅しています。彼女は一般的な外交官と比較しても、より多くの国々を訪問したと言えるでしょう。もちろん世界中を撮影旅行で訪れていますので、この度の日本への駐在が決まった時は、「私の夢だわ!」と言っていました。
私たちはその国を探索することができればとても幸せです。異なる哲学や思想を持っている国を訪れることは、一味違う体験をすることができます。私たち夫婦は、それぞれ異なる理由から、ここ日本にいることをとても喜んでいます。
Q:前大使の来日は、東京オリンピックに向けて盛り上がっていた時期でした。しかし、その後、新型コロナウィルス感染拡大があり、外交官としての活動が大幅に制限されました。今回の任期ではどのようなことを期待されていますか。
私は2001年から2004年の三年間、2004年に開催したアテネオリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会に勤務し、組織委員会における人事・ボランティアのジェネラルマネージャーを担当しました。その経験からも、大会に注ぐ情熱は十分に共感できますし、東京2020組織委員会が直面した困難も理解しています。
新型コロナウィルス感染拡大によるパンデミックは、あらゆる分野において大きな後退をもたらしました。日本は厳しい水際対策に踏み切っていしたが、これはそれぞれの国独自の基準で政策を設けているからだと感じました。私は外国人観光客の増加を期待していますので、その入国制限を早く解除してほしいと思います。それは私たちの娘たち(現在、青少年ケアのプロとして勤務)から見ても、世界中の若者は日本に大変魅了されており、刺激を受けているからです。彼らは(パンデミックの為)旅行で訪れることも、勉学のために来日することも出来ず、悔しい思いをしていたのですから。
しかし、日本は世界との関係性においても、今後一層、開放していくことになるでしょう。こうした関与をより発展させることによって、近隣アジア諸国だけでなく、欧州諸国、米国と日本との距離を縮めることができるからです。非常に興味深いことは、日本は経済的な影響力があるだけでなく、政治的な影響力、つまり法の支配を支持し、国際法を尊重する世界の舞台における重要な役回りとしても注目されていることです。
2023年から2024年にかけて、日本は再び国連安全保障理事会の一員となり、それにむけた動きが見られるでしょう。また、2025年から2026年にかけては、ギリシャも理事国に選出される見込みがあり、両政府が密接に提携する機会があります。
Q:日本・ギリシャ関係における最新情報、および在日期間中に力を入れたい分野についてお聞かせください。
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、長らく訪問が延期されていましたが、今年4月13日、東京への最初の公式訪問者の一人として、我が国の外務大臣が来日しました。外務大臣は、林外務大臣を始め、国会議員と有意義な会談を行い、中小企業の団体の方々にもお会いしました。
ギリシャと日本は非常に良好な関係を築いています。グローバル化が進む国際社会において、両国は同じ考え方を持ち、国際的な活動の場で同じ目標を共有しています。ですが、両国は貿易とビジネスにおいて更なる未知の可能性を有しており、その可能性を広げ、貿易とビジネスの規模を増やすことで、二国間の関係性はさらに深まるでしょう。
ギリシャにおける経済危機のため、両国の貿易と投資は全般的に減速しました。ギリシャ人は、自動車や機器、エアコンなど、新たな商品やサービスの購入を見送らなければなりませんでした。ご想像通りこれらは日本から輸入しているものばかりです。同時に、低コストで販売するという経済的優位性により、ギリシャからの輸出は増加しました。しかし、ギリシャは、日本に何を輸出しているのでしょうか?ギリシャからの輸出品としては、医薬品、タバコ、建築資材、農産物や、オリーブオイル、チーズ、ヨーグルト(輸入ヨーグルトは関税が非常に高い)といった、ギリシャの代表的な食品があげられます。しかし、輸出量は決して多くはありませんので、それが課題となっています。それを解決すべく、二国間の貿易や投資を活性化させるのが我々の使命です。現在ギリシャは経済危機を脱し、投資においては以前の状況を取り戻しつつあります。
Q:日本人が投資する対象として、具体的にどのような産業が興味深いと思われますか?
重視すべき分野の一つにエネルギー産業があげられます。ギリシャには、太陽光や風力などの再生可能資源に関して大きな可能性(将来性)があります。また北海で用いられている、潮の動きを利用して発電を行う海洋エネルギーの可能性もあります。加えて、エーゲ海の既存の鉱床から天然ガスを掘削する可能性もあります。地中海の南東部には、キプロス、イスラエル、エジプト、ギリシャが共有する大量の埋蔵量がありますので。そろそろ掘削作業を進める時期でありますので、これは良い投資機会といえるでしょう。
掘削を開始する上で、そのプロジェクトを担当する企業への投資家が必要です。天然ガスは、化石燃料の中で汚染度が最も低く、需要が高いことはご存じでしょう。特にヨーロッパはエネルギー源の多様化を目指しているため、天然ガスが非常に高価になり、新たな鉱床の探査が容易になっています。
ギリシャは特殊な経済で成り立っています。ユーロ圏の一員であるため、先進的な経済グループの一国でありながら、新興国の要素も未だ持ち合わせています。ギリシャの平均給与は、ヨーロッパで類似する国と比べて低めであることから、教育水準の高い労働力を安価で確保することが可能です。不動産に関しては、観光価値は高いながら、まだ投資の対象としては非常に合理的価格であり、観光にも伸びしろがあると言えます。ギリシャ人は人気のあるクレタ島、ミコノス島、サントリーニ島の土地はほとんど開発されすぎていると口にしますが、しかしギリシャには他にもまだ開発可能で安く投資出来る島や海辺、本土におけるエリアが数多くあり、投資も比較的安価に開発を行うことができます。
ギリシャは工業国であるとは言えませんが、非常で優秀で、ハイテクな技術を備えた中小企業があり、そうした企業がアメリカやヨーロッパの企業向けの部品や機器を手掛けています。そのために日本のテクノロジー企業はギリシャに投資すれば、ギリシャの工場で高品質な製品を安価に生産することが可能です。そうした背景があるので、これらの製造業界は投資先として非常に魅力的な分野とも言えます。
繰り返しにはなりますが、ギリシャには高度な技術を持った人材がいるということを忘れないでください。経済危機の際に、多くのギリシャ人が他のヨーロッパ諸国や中東地域などの国外に移住しました。十分な報酬を得ることができる仕事が見つからなかったことから、約四千人ものギリシャ人専門医が職を求めて国を去り、英国に渡りました。ですが、国営、民営におけるギリシャの医療システムで、雇用の創出やインセンティブが創出されたことによって、国を離れた人々は自国に戻ってきています。こうした理由から、医療関連事業も投資対象として挙げられます。実際、アメリカの健康産業界はギリシャに投資しています。その理由は、アメリカや他のヨーロッパ諸国と比較して、低価格で非常に良い医療サービスを提供できるからです。こうした企業は、通常のツーリズムと健康ツーリズムとをうまく組み合わせています。ビジターは2週間もしくは10日間程度ギリシャに滞在し、治療が終わると、温かく迎えられながら、素晴らしい環境の下、より低コストで回復することができます。今年度10月には日本企業による現地視察がギリシャを訪問することになっています。これは2020年に予定されていましたが、新型コロナウィルス感染拡大のパンデミックのために延期されました。ギリシャではその視察団を歓迎することを楽しみにしています。
今回の訪問は、ギリシャの投資適格性の見直しが予想される時期と重なるでしょう。これまで、日本の機関投資家はギリシャ政府の投資不適格性により、投資することができませんでした。繰り返しになりますが、日本の機関投資家は、世界的な高インフレ経済と、安全志向へと傾く現在の経済情勢の中で、ギリシャの国債が大変魅力的な投資先であると再認識し、戻ってくるでしょう。ギリシャは投資状況が改善され、国債の償還率が向上し、ユーロ圏の債権者から支持されるようになったことで、日本からのグローバルな機関投資家や企業投資家にとって、投資やビジネスを行う魅力的な国として改めて見られるようになりました。
Q:駐日ギリシャ大使館ではどのような文化的な取り組みをおこなっているのでしょうか。ぜひともお聞かせください。
文化とは人と人を結びつけると同時に、ビジネスを結びつけます。ビジネスが文化を支えることもあれば、文化がビジネスを支えることもあります。日本のアーティストグループがギリシャで公演しているのを見ると、日本製品の購買意欲が湧くということにもつながります。
しかし、新型コロナウィルス感染拡大による世界的なパンデミックにより、多くの文化的な活動が延期、中止されています。これは芸術、若者に影響を与え、元の状態に戻るまで時間を要するでしょう。
そして、渡航制限と水際対策が現在も続いているため、活動の延期を続けています。先ほどの述べましたように、十分に考慮された上で、渡航の自由が戻ってくることを望んでいます。日本の当局は非常に慎重に扱うことでしょう。
当面の間は、人々にとって旅がどれほど容易なものになるかはわかりません。物価も高く、何事にもコストがかかる現在の世界情勢を踏まえると難しいでしょう。
大使、本日はどうもありがとうございました。
ギリシャ共和国 駐京大使館HP
【関連記事】