ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)現在開催中
芸術×力という強烈なタイトルの展覧会が現在、東京都美術館で開催されている。
展覧会会場で感じる優れた芸術作品と権力には関係性がある。こうした芸術家を権力者が支援するというシステムはいつの時代にあっても確実に存在した。ルネサンスの隆盛にもその影響は大きく、豪商メディチ家の存在はとても大きい。
今回の展覧会は、まさに時の権力者が作らせ、愛した作品がそろえられている。キュレーションは多岐にわたり、けっして一つの時代、地域、芸術のスタイルにこだわっているわけではない。そのどれもが権力とはどういうものかを物語るようにち密で、素晴らしく美しい。
いくつかの作品を紹介すれば、芸術を愛したことで知られる乾隆帝の黄金に輝く《龍袍》と呼ばれる外衣が目に留まる。龍は皇帝を表す5本の爪をもち、米、山などの十二章は皇帝が宇宙さえも支配していることを表す。皇帝とはこういうものだと、この外衣は無言の威圧感をもって私たちに語り掛けてくる。
アメリカでもっとも裕福な女性と言われたマージョリー·メリウェザー·ポストが、英国王ジョージ5世とメアリー王妃に謁見する際に購入したエメラルドのブローチもその美しさに目を見張る。中央の大きなエメラルドの表面にはアイリスの模様が彫られている。それをぐるりと囲むダイヤと、そのダイヤに垂れ下がる大粒のエメラルドは、今も昔もアメリカの富の象徴とさえ言える。
日本美術も多く展示されているが、その中でも《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は見逃せない。史実である平治の乱を題材に描いているが、その人物描写の面白さは興味深い。平治の乱の顛末は、武士の世の中の幕開けではあるが、ここでは貴族は白く、上品に描かれ、武士は下品な顔に描かれている。おそらく貴族階級によってオーダーされた作品なのだろう。また、このクーデターによって焼き払われる貴族の館を襲う炎の描写は素晴らしい。墨という画材がこれほどうまく使われ、炎を引き立てている表現は他に例がない。後の作家に大きく影響を与えたことも理解できる。
今回、約10年ぶりの里帰りを果たした《吉備大臣入唐絵巻》も見逃せない。遣唐使として唐に渡った吉備真備は、その才能を恐れられ、到着早々、唐の役人によって高楼に幽閉されてしまう。突然そこには赤鬼が現れ、吉備真備に知恵をさずけ、両名は協力しあって数々の難題を解き明かしていく。この赤鬼の正体は、すでに唐に渡り、客死していた阿倍仲麻呂だった。奇想天外なストーリー、吉備真備と赤鬼と化した阿倍仲麻呂の動きはまさに12世紀のサブカル、漫画とも言える。
この作品は昭和7年に、日本から売却という形でボストン美術館に渡っている。日本にあれば、確実に国宝に指定された作品だろう。しかし、当時の法により、こうした流出は防ぐことができなかった。その後、日本は第二次世界大戦を経験している。はたしてこうした国宝クラスの美術品を国家が守り切れたかはわからない。
海外流出によってボストン美術館に収められたがゆえにその形を保ち、その後、この作品は何度も日本に里帰りしている。これもまた権力がなせる業ではないか。
日本は権力、スポンサーが美術を擁護することが少ない。こうした文化への権力をより強めていく必要性さえも感じた。
すべてボストン美術館蔵
ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)
展覧会基本情報
会期:2022年7月23日(土)~10月2日(日)
会場:東京都美術館
休室日:月曜日、9月20日(火)
※ただし、8月22日(月)、29日(月)、9月12日(月)、19日(月・祝)、26日(月)は開室
※日時指定予約制。当日券あり(ご来場時に予定枚数が終了している場合あり)
開室時間:9:30~17:30 金曜日は9:30~20:00 ※入室は閉室の30分前まで
展覧会公式サイト:https://www.ntv.co.jp/boston2022/
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)