駐日リトアニア共和国特命全権大使オーレリウス·ジーカス閣下に聞く「これからのリトアニアと日本」

Lithuania and Japan |

おかえりなさい。新大使は日本で学んだ国際政治学者。

今年、駐日リトアニア大使館にはオーレリウス・ジーカス新大使が着任した。6月24日には、今上陛下に謁見し、信任状を捧呈している。物静かで、物腰柔らかなジーカス新大使は、元々は大学で教鞭をとっていたという。リトアニア屈指の日本語の能力を買われ、大統領をはじめとするリトアニア政府幹部の通訳を務めた経験も持つ。

このインタビューは完璧な日本語でお答えいただいた。ソフトな声で話す丁寧な日本語に、新大使のお人柄があふれ出る。リトアニアという国を知る上で、とてもいいお話しを聞くことができた。

ジーカス大使(以下、大使):今日は大使館までおいで下さいましてありがとうございました。

質問:日本語が大変にお上手ですが、どこでお勉強なさったのでしょうか。

大使:大使として日本に来たのはわずか3か月前ですが、初めて日本に来たのは1998年でした。なぜ日本語を学んだかと言うと、日本語は世界で最も複雑な言語という印象が私にはあり、挑戦してみたかったからです。ですが、当時のリトアニアには日本語を学ぶための資料は何もありませんでした。偶然に辞書を手に入れたことがあり、それで勉強し始めました。それから98年に初来日し、初めは金沢大学、続いて早稲田大学に留学し、合計3年間を過ごしました。

質問:リトアニアではどのようなお仕事をなさっていらしたのでしょうか。

大使:日本への留学を終えてから、17年間は大学の准教授として教鞭をとっておりました。リトアニアでは、日本語ができる人というのは非常に限られておりましたので、大統領、首相の通訳を務めることもあり、知らず知らずのうちに、外交の分野に入って行きました。

大使への就任については、正直に申し上げれば、外交官になる夢も持っておりませんでしたし、目指してもおりませんでした。去年の秋に外務省から突然電話があり、副大臣から日本大使になってほしいというお話しをいただきました。今までの貢献を認められたということでしたが、とてもびっくりしました。お受けするかどうかも長く悩みました。現在の国際情勢は大変な時期にあります。幸い、心強いことに私の専門は政治学であり、長く研究していたのでこの分野はかなりわかっていました。また、自分の日本語能力、文化への理解があれば、このミッションは成功裡に導けるのではないかと思いました。さらに、これは人生のミッションだと感じ、決心いたした次第です。

質問:どのようなことをなさりたいのでしょうか。

大使:外交の中には3つの重要なことがあります。政治、経済、文化/市民交流ですが、一番目指しているのは経済交流です。昨年、リトアニアが台湾代表部を設立したことで、中国の関係が悪化し、貿易も経済交流もゼロとなりました。リトアニアは中国の代わりに東アジアに市場を開発しようという取り組みが始まっています。韓国、シンガポール、台湾が非常に大事な貿易相手国になり、日本もその一つです。

リトアニアは貿易を中国から東アジアの国への輸出にシフトし、成功裡に進んでいます。リトアニアには「難しい時は本当の友達が分かる」ということわざがあります。日本とは大切な友達関係にあり、今は難しい時期ですが、今後はより経済交流進めたほうがいいと思っています。

質問:リトアニアというと、日本人のほとんどはカウナスの「日本のシンドラー、杉原千畝さん」を思い浮かべますが、リトアニアでもその功績は認められているのでしょうか。

大使:はい。リトアニアの中でも杉原さんのことはよく知られており、両国にとって最も大事な絆だと思います。リトアニアでは教科書にも杉原さんの話を掲載しており、メディアでの知名度も高く、リトアニア人は杉原さんを尊敬しています。

質問:バルト三国と呼ばれていますが、3国の交流はありますか。ソ連からの独立を経て、IT,産業の発達は目覚ましいですが、いかがでしょうか。

大使:リトアニアとはバルト三国の一つですが、この三つの国には共通点は殆どありません。言葉、アイデンティティ、歴史、宗教も違いますので、汎バルト三国としてのリトアニアのアイデンティティは強くはありませんが、しかし、互いに協力していくことが必要です。

旧ソ連時代、バルト三国は経済的には恵まれていました。西側にあるソ連の領土として、ソ連も誇りにも思っていました。独立してからは自由貿易に移行いたしましたので、90年代は大変でしたが、この20年間でバルト三国は非常に発展し、経済面でも進み、民主主義も成功したと言えます。現在、リトアニアはNATOにもEUにも加盟しており、最も東に位置する国となっています、NATOにとっては東を守っている国と言えるでしょう。

しかし、バルト三国は独立を果たしても、ロシアからの長期に亘る経済的な従属関係が続いていました。その理由はエネルギー資源が少ないからです。かなり長い間、ロシアから安いガスを輸入し続けてきました。ですが、リトアニアは10年程前に、大金を投じて国内に、「独立インデペンデンス」というLNGターミナルを作りました。当時はこの建設について周辺諸国からは心無い言葉があったことはありました。ですが、今年になってから、これはとても大きな成功例だと言われるようになりました。リトアニアはロシアからのガス供給には頼っておりませんし、反対にガスを周囲の国々にも売っています。

最近、バルト三国はICTの発達に力を入れています。リトアニアもITECなどが非常に進んでいます。輸出で多くなっているのは、実はパン、チーズ、農産物等ではなく、レーザーです。現在、リトアニアから輸出させる科学レーザーは日本の市場で大きな割合を占めています。医学用のレーザーはとても多く使われています。リトアニアには優れたレーザー技術があり、さらに新しい技術も生まれています。

質問:リトアニアは優秀な科学者を多く輩出していらっしゃいますね。どのような分野が得なのでしょうか。日本との交流はあるのでしょうか。

大使:確かにリトアニアは優秀な科学者を大勢輩出しています。ヴィルジニュス・シクシュニスは遺伝子の研究をしており、ノーベル賞候補になりました。特にライフサイエンスなどの分野においてリトアニアは優れており、この分野でも今後、日本との交流ができるのではないかと思います。

文化交流については、残念ながら新型コロナウィルス感染拡大のためにとどまっています。コロナ感染拡大の直前には、慶応、関西学院、京都大学といくつかのリトアニアの大学と手を組んでの共同研究を行うなど、色々なことが実現できました。今でも共同研究のプロジェクトは、がんの治療に関する分野などでおこなわれおり、日本のAMAD国立研究開発法人日本医療研究開発機構の支援もあります。

質問:リトアニアの国民性について教えていただけますか。

大使:リトアニアの立場は、できるだけ明確に物事を言うということにあります。日本の場合はそうではないですね。さらに勇気のある国とよく言われています。ロシアに対しても「脅威」ということを言い続けてきました。ウクライナへの侵攻がはじまってからは、リトアニアは正しかったと世界から言われています。

質問:リトアニアの人口はどれぐらいでしょうか。高齢化社会でしょうか?

日本と比べるととても少ないです。面積は北海道よりも少し小さいぐらいです。人口も少なく、300万人弱です。ですが、国土が肥沃ですので食料の自給率は100%を越え、国外に輸出もしています。

国が発達していくと、高齢化の問題が始まるのですが、リトアニアは若い人が多いです。個人的にもうれしいと思っているのは、若い人たちが重要なポジションについているということでしょう。日本人の感覚からみると、そんな若い人が大使、大臣などになれるのでしょうかと言われます。外務大臣も40歳で、経済大臣も若いです。日本と比べて女性がいいポジションについていることも注目すべきでしょう。現在は首相が女性で、国会議長も女性が務めています。前の大統領も女性でした。これは北欧の文化と共通点があると思います。女性が非常に力を持っていることもそうですが、福祉の面でもリトアニアはかなり、北欧のモデルを取り入れています。

質問:ツーリズムについてお話しいただけますか。

リトアニアには昔からの文化と美しく、中世の景色そのままの旧市街が多く残っています。自然にも恵まれており、森林、海岸沿いの砂丘などもあり、観光にはとてもいいところです。リトアニアの食事はおいしいですし、日本人の口には大変あうようです。

コロナの前は観光産業が発展しており、多くの日本人観光客が訪れおりました。杉原記念館への訪問も観光コースの中にありました。ですが、コロナ禍で観光産業は停滞し、特に日本からの観光は打撃を受け、昨年は数百人程度しかいらしておりませんでした。最近はヨーロッパからの観光は復活し、新型コロナウィルス感染拡大前の状況に戻ってきました。これからは日本からの観光も戻ってくることと思います。

質問:リトアニアのお料理はどのようなものが代表的でしょうか。

東欧の料理には共通点があります。肉料理が多く、ジャガイモが主食になります。ジャガイモが主食というのは日本人にとっては想像しにくいと思います。有名なのは、鮮やかな色のシャルティバルシチェイというピンク色のスープです。ビーツとヨーグルトで作る、さわやかでいい味のするスープです。これもピンクの色が日本人想像しにくく、びっくりされます。

質問:最後になりますが、リトアニアのアートについてお話ししていただけますか。

リトアニアでの有名な芸術家ですが、殆どはユダヤ系です。最も有名な作曲家はミカロユス・チュルリョーニス‎です。本当に天才と言える人で、リトアニアの誇りです。

新しい美術館では「MOミュージアム」が、首都ビリニュスに開館いたしました。大変近代的な美術館でモダンアートを紹介しています。こちらにも多くの観光客が来ています。

大使館内に展示してある絵画の作品は、リトアニア国立美術館から借りてきたものです。今は10点程度を内部に展示しています。来年はまた違う作品を展示します。もうじき新しい文化担当官も着任いたしますので、色々な文化projectができると私は期待しています。

大使、今日は長いお時間をいただき、大変貴重なお話しをありがとうございました。

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