パラノビチ・ノルバート駐日ハンガリー大使インタビュー
このインタビューで、パラノビチ・ノルバート大使は母国ハンガリーの文化、芸術、科学、経済の発展とハンガリーの素晴らしいツーリズムに関わる温泉およびおいしいと評判のハンガリー料理について語り、さらに日本との経済的な相互関係と密接かつ強固な関係についても言及している。
質問:大使に就任なさった経緯とご経歴をお話しいただけますか。
大阪の関西外国語大学の新プログラムに参加するため、奨学金を得て初の交換留学生として2002年に初めて日本にやってきました。なぜ日本に来たかと言うと、日本文化というレンズを通してアジアに親しむことに興味があったからです。それが主な目的でしたが、 日本に関連した分野については、専門知識などはないという状態でした。まず交換留学生になれたという強みもありましたので、一般的な興味、好奇心だけをもって日本にやってきたわけです。
2004年には改めて奨学金を得て留学生として名古屋に来ることができました。そこで学び、後に博士号を取得しました。 今迄の私のキャリアにおいて、大阪、名古屋、東京で暮してきました。各地で交換留学生として学び、ジャーナリストとして働き、さらに企業で働くという経験をし、ハンガリーの代表的な企業の代表も務めていました。そうした経験からも、さまざまな角度から日本社会の多彩な側面を見て、経験することができました。 2016年からは大使としてハンガリーの代表を務めています。
これらの経験は色々な門戸を開くことを可能にしてきました。こうした経験があって私は日本の文化や地理の分野でも、あまり知られていない側面の理解を深めることもできました。 もし東京からこの人生の旅とキャリアを始めていたら、同じような経験はできなかったと思います。 東京はとても素晴らしく快適な都市ですが、それに慣れ過ぎていると冒険を避けるようになってきますね。
質問:カリコ·カタリン博士(新型コロナウィルスに対するワクチンの開発者)に代表されるような、ハンガリー人による文化的な面での重要な貢献をご紹介いただけますか?
ハンガリーは人口1000万人未満ですが、 ハンガリー人を自称する人を含めると、その数は世界全体で約 1,500 万人にのぼります。
このように人口が比較的少ないにもかかわらず、ハンガリー人は多くの重要な文化的および科学的な分野で貢献をしてきたと言えます。 ハンガリー出身のノーベル賞受賞者は13 人に上ることもあり、その人々の業績を含む学術的な業績、さらにはクラシック音楽と現代音楽両方での貢献はとても大きなものです。これはハンガリーが小さい国であり、人口も少ないということを考えれば、間違いなく果たしてきた貢献の度合いは高いと言えます。
ハンガリーは多くの点で豊かな人的資源に恵まれており、その意味では大国だと思います。カリコ·カタリン博士については ハンガリー人は非常に誇りに思っています。女性であり、科学者でもあります。また、新型コロナウィルス感染のためのメッセンジャーRNAワクチンの開発において、その発明は大きなニュースにもなりました。
ハンガリー大使館の大使執務室の机の上には、ハンガリーを代表するもう 1 つのイノベーション、ルービック キューブが置かれています。ルービック·キューブの 日本人への認知度は 99.9% かもしれません。ですがルービック·キューブが1970 年代にハンガリーの建築家ルービック·エルノーによって発明され、1980 年代に初めて商品化されたということを知っている日本人はほとんどいません。 私はルービックキューブがハンガリーをイメージするに代表的ではないかととても思っています。これは小さな物体ですが、スマートであり、また創造的です。
ハンガリーの発明家、科学者によってホログラフィー、ボールペンも発明されておりますし、IT 技術にも多大な貢献をしています。 コンピュータ―技術の分野では、バイナリ·システムを発明したジョン·フォン·ノイマン(ハンガリー名はノイマン·ヤーノシュ·ラヨシュ)、現代のワープロ ·ソフトウェアを作成したチャールズ·シモニー(ハンガリー名はシモニ・カーロイ)などが挙げられます。 その他の著名なハンガリーの科学者には、ビタミン C を発見したセント=ジェルジ・アルベルトが挙げられます。また、新型コロナ·ウイルスに関連した分野では、ハンガリーの科学者で産婦人科医であったイグナーツ·センメルヴァイス(ハンガリー名はセンメルヴェイス・イグナーツ・フュレプ)は病院での手洗いを導入し、殺菌と消毒を広めました。彼の銅像は 東京広尾にある赤十字医療センターで見ることができます。
質問:経済的な観点からお伺いいたしたいと存じます。まず、ハンガリーで盛んな産業は何がおありでしょうか? 日本とのビジネスや貿易関係はいかがですか?
私たちの省庁は外務貿易省ですので、外国直接投資を含む貿易促進は、大使館での日常業務において重要な役割を果たしています。その為、海外直接投資を含む貿易促進は、ハンガリー大使館の日常業務の中でもとても重要な役割を果たしています。 先に述べました通り、ハンガリーは小さな国で、その面積は北海道 (日本で 2 番目に大きい) とほぼ同じ大きさですが、経済は非常に開かれています。 ハンガリーは企業とはとても友好といえる関係があり、十分な機会と共に補助金も提供しています。 1990 年代に経済が(自由経済に)移行しましたので、それ以来、21 世紀には多くの外国からの投資を受けいれてまいりました。
日本に関して言えば、ハンガリーには自動車メーカーのスズキ株式会社をはじめ、185社以上の日系企業が進出しています。 ハンガリー政府は、自動運転の研究や電気自動車のバッテリーの製造など、モビリティの新時代を促進するために、より多くのことを行ってきました。
また、ハンガリーからの輸出と海外直接投資の両方において農業を忘れることはできません。これはとても強力ということができます。 日本の日清はハンガリーにも進出しており、実際にヨーロッパや北アフリカで販売されているカップヌードルはハンガリー産であり、その製造の殆どにハンガリー産の原材料が使用されています。
質問:ハンガリーの伝統的な手工芸品や芸術について詳しく教えていただけますか。
ハンガリーには素晴らしい手工芸品に関わる文化遺産があり、ハンガリー人はそれをとても誇りに思っています。ハンガリーの手工芸品の中で代表的なのはヘレンド磁器でしょう。ヘレンドは約200年前にその窯を開きました。 ヘレンドは、日本でも世界でも最も有名で権威のある磁器ブランドの 1 つです。 こちらにお出しした蝶々をあしらったヴィクトリアというパターン、その美しさから見ればすぐにヘレンドだとわかる独特のグリーンを使ったインドの華、もしくはアポニーと呼ばれるパターンなど、さまざまなデザインがあります。 ヘレンドは英国のバッキンガム宮殿でも広く使用されています。 Netflix シリーズの「ザ·クラウン」をご存知ですか。その番組の中で、女王陛下がお茶を飲むシーンが出てきますが、そこにもよくヘレンドの磁器が使われています。
ハンガリー刺繍も大変有名であり、カロチャ、マチョと言う刺繍は日本でも高い人気を誇っています。日本国内にも多くのハンガリー刺繍を学ぶグループがあり、ハンガリー刺繍を楽しんでいます。
質問:ハンガリーの温泉も有名ですが、名湯もおありですか?
新型コロナウイルス感染拡大の影響による困難にもかかわらず、ハンガリーはここ数年の観光客誘致に成功しており、確実に観光業は回復しています。 ハンガリーには数百の温泉リゾートとスパがあり、ハンガリー全国に1000を超える天然温泉があります。 ブダペストは、世界で最も温泉が多い首都として広く知られています。 ブダペストにはオスマントルコ帝国時代からアールヌーボー期までの間に建てられた室内温泉施設が存在し、さらに露天風呂も多数あります。 ブダペストの温泉の中では、ドナウ川を見下ろすルダシュ温泉が一番お勧めだと思います。
質問:ハンガリーの有名な食べ物や自然の産物について、お話しいただけますか?
ハンガリーは内陸国ですが、その土地は非常に肥沃で、農業と畜産の両方に適しています。その為、とても幅広く数が豊富な食品と自然の産物に恵まれています。 日本からのお客様は日本の出汁に似たコクと深みを持ったハンガリーで最も有名なグーラッシュを試してみたいようですね。出汁とはやや違いますが、とてもおいしいです。 また、ハンガリーはガチョウとアヒルの産地としても知られており、織物やリネンにハンガリー産ホワイト·グース·ダウンを使用する産業が盛んです。 また、日本にも大量の鴨肉を輸出しておりますので、そば屋で鴨南蛮を注文すると、ハンガリー産の鴨が出てくる可能性が高いです。
マンガリッツァ豚と呼ばれる特別な毛むくじゃらの豚もハンガリーの産物です。これは食べられる国宝と呼ばれています。おいしいだけでなく、独得の容貌をもった動物でもあります。 一時、マンガリッツァ豚は絶滅の危機に瀕したこともありますが、現在はその危機を脱しています。このようにハンガリーの食文化にまつわる興味深い話がたくさんあり、東京や日本各地には、ハンガリー料理を味わえるハンガリー料理店があります。
パラノヴィッチ大使、どうもありがとうございました。