神戸市立博物館による待望の企画
よみがえる川崎美術館 ―川崎正蔵が守り伝えた美への招待― 現在開催中
現在、日本は世界でも指折りの美術館大国となっている。各地には規模に関わらず多くの美術館があり、私立美術館も多い。
日本で最初の私立美術館、川崎美術館は、1890年に川崎造船所(現在の川崎重工)、神戸新聞社などを創業した実業家、川崎正蔵によって建てられた。川崎美術館は現在の神戸市布引にあり、日本、東洋美術を中心としたコレクションを所蔵していた。そのコレクションには、後に国宝、重要文化財に指定される優品が多く含まれている。だが、残念なことに1927年の金融恐慌をきっかけに、コレクションは散逸し、川崎美術館の建物も水害、戦災によって失われてしまう。
こうした時代背景によって散逸して行った作品は、今までは一同に会する機会はなかった。この度、神戸の文化の中心とも言える神戸市立博物館が当時、川崎正蔵が所蔵していた優品およびゆかりの作品約80点を集め、不可能とも思われたこの展覧会を実現させた。作品たちは約100年の時間を経て古巣、神戸に戻り、驚くべきことにまるで川崎美術館がよみがえったかのように展示されている。
この展覧会での圧倒的な魅力は、やはり円山応挙が描いた襖絵、掛軸を含む数々の作品ではないだろうか。
川崎美術館には金刀比羅宮表書院の襖絵にある「水呑みの虎」を思わせる作品も所蔵されている。「猛虎渓走図」(個人蔵)もその一つだ。当時、日本には虎は存在せず、応挙は猫をモデルに描いたという逸話も伝わる。しかし、川崎美術館が所蔵していた応挙の筆は、しなやかでありながら勇壮な身体つき、ふとい手足、小さな耳などの虎の特徴をよくとらえている。
数点に上る襖絵は圧倒的だ。「海辺老松図襖」、「雪景山水図襖」(いずれも東京国立博物館蔵)などの大傑作が並ぶ。そこに描かれた童子を連れた仙女の美しさ、その繊細さには息をのむ。応挙全盛期の傑作が揃っている。
狩野孝信が描いたとされる重要美術品「桐鳳凰図屏風」(林原美術館蔵)も展示されている。この屏風絵では、飛び立つ鳳凰の姿を、まるでフランドル派の絵画のような細かさと、濃厚さをもって表現している。
そして展覧会最後に現れるのが顔輝が描いたと伝わる重要文化財「寒山拾得図」(東京国立博物館蔵:展示期間は11月13日まで)だ。足利義政が所有した東山御物でもあるこの作品は、織田信長の手にもわたっている。かつては益田鈍翁をはじめとする有名コレクターにも紹介されたが、価格が折り合わなかったという。そうした経緯を経て川崎正蔵の手にわたり、川崎正蔵は命の次に大切にし、日々、独り香をたき、愛でていたとされる。
「寒山拾得図」に描かれた二人のほほえみは、時として不気味にも見える。しかし、このコレクションにあっては「どうだ、このコレクションはすごいだろう」と鑑賞者に語り掛けているようにさえも感じられる。
この素晴らしい展覧会は神戸市立博物館でのみ開催される。会期は12月4日(日曜日)まで。ぜひともこの展覧会の為に神戸をおとずれてほしい。