香川県立ミュージアム「特別展「風景が物語る瀬戸内の力―自然・歴史・人の共鳴―」 

現在開催されている瀬戸内国際芸術祭2022参加展覧会「特別展「風景が物語る瀬戸内の力―自然・歴史・人の共鳴―」は大変見ごたえのある展覧会だ。

瀬戸内国際芸術祭が開催される直島、高松等の地域は瀬戸内海という日本最大の内海(ないかい)に恵まれ、内海に浮かぶ島々は700以上にも上る。自然に恵まれた瀬戸内には、人々の往来、屋島に代表される源平合戦など、歴史的な事実も多い。

この展覧会では、瀬戸内海を<ユートピア><自然><生活><名所><近現代そして未来>という5つのテーマに分け、中世から現代までの各地の瀬戸内海の姿を表わした作品を展示している。

その展示の中でも、特に注目を集めたのは「志度寺縁起」のシリーズ「御衣木之縁起」「讃州志度道場縁起一」「讃州志度道場縁起二」という3つの作品だ。

「讃州志度道場縁起」には、藤原不比等の妹が唐の皇帝に嫁ぎ、父、藤原鎌足の供養のために面向不背の宝珠を日本に送ろうとするが、その宝珠を積んだ船は志度の浦で嵐にあい遭難、宝珠は竜神に奪われてしまうという物語が描かれている。

更にこの物語は続き、藤原不比等は海女を妻とし、宝珠奪還を願う。妻となった海女は自分の息子を藤原氏の嫡男とするよう頼んで一人、龍宮へ向かう。妻である海女は自らの命と引き換えに宝珠を奪還する。不比等は命を落とした妻を偲んで墓を作り、志度寺を建立したという。

この作品は重要文化財にも指定されており、以前から香川県立ミュージアムにはレプリカが展示してあった。しかし、今回、修復を経て、元来の美しい姿を取り戻している。暴風雨にみまわれ、珍しく荒れる瀬戸内海の様子、唐の皇帝に嫁いだ藤原不比等の妹の様子などが繊細なタッチと荒々しい画面をうまく組み合わせて描かれている。妻を失った不比等は堂宇を増築し死度道場と名付けた。後に、息子の藤原房前が行基とともに堂宇を建立し、「死度道場」を「志度寺」に改めたと伝えられている。

その他にも、すでに絶滅してしまった日本あしかが描かれた網代日記も素晴らしい。訪れていないはずだが、どういうわけか歌川広重はこの地域も描いている。しかし、本当は訪れたことがないということがばれないようになのか、その構図はとても工夫がこらされ、とても見ごたえのある作品となっている。

その他、すぐれた作品が並ぶこの展覧会は、この地が四国遍路路を有すること、空海にゆかりのある地域であること、また、高松城に代表される松平家のおひざ元であるということを改めて思い出させる。

こうした瀬戸内海にまつわる伝説を描いた作品をしっかりとした構成をもとに展示している展覧会は他に例がないのではないか。11月6日までと残りの会期は少なくなっているが、是非とも見て頂きたい展覧会だ。

また、見逃した場合も、香川県立ミュージアムに問い合わせ、この展覧会の図録を購入して、瀬戸内海に残る伝説、それを描いた作品について読んでみるのもとても面白い。

香川県立ミュージアムは、この展覧会に続き「高松藩主松平頼重生誕400年記念展Ⅱ 頼重と寺社」を開催する。さらに来年には空海の生誕1250年を記念した展示があるという。これも見逃せない展覧会だ。

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