コンスタンティン・カキュシス駐日ギリシャ大使にインタビュー
この度、帰国を控えたコンスタンティン・カキュシス駐日ギリシャ大使にインタビューする機会を得た。日本とギリシャ両国間で「海の力」として称えられた外交官·大使として、その手腕、滞在中のハイライトとも言える業績についても述べている。
新型コロナウィルス感染の世界的大流行の中で開催された東京オリンピックへの尊敬と協力、その教訓についても大使は語っている。今まで、今後のギリシャと日本の間のより大きな協力と発展の機会についての見解は非常に興味深い。名大使のインタビューらしく、深い洞察に満ちた内容となった。
Q:日本滞在中を振り返ってみて、どのようにお考えでしょうか。
振り返ってみると「変化の時代に生きて」という古代中国の「呪い」に似た言葉しか思い出せません。私たちは日本には3年と数ヶ月滞在しましたが、新型コロナウィルス感染拡大を含むいくつかの困難な時期に直面しなければなりませんでした。また、新天皇の即位、無観客となった象徴的なオリンピックなど、非常に重要かつ歴史的な出来事を幾つも自らの目で見ることもできました。
日本は困難をものともせずに、東京オリンピック2020の開催を成功させました。それを理解することは重要です。日本以外の他の国ではできなかったと思います。それは褒め言葉ではなく、事実です。
日本人の献身はまさに前例がない程でしたが、それは、危険を伴うにもかかわらず、東京オリンピック2020開催という仕事をやり遂げるためには必要なことでした。また、ギリシャのテレビでは、「日本は島国であり、島として外部から入ってくる微生物や細菌などにはるかに敏感だ」とコメントしています。それからもわかるように、日本への危険はどの大陸の国よりも大きかったはずです。リスクがないわけではありませんでしたが、政府は深く考慮し、非常に勇気ある決断を下したと思います。
当初、誰もが東京オリンピック2020の開催に反対していました。しかし、開催決定という決断が下されましたが、その瞬間にも誰もが後ろ向きでした。これは私にとって非常に重要なことでもありました。
Q:通常とは全く違った東京オリンピック2020でしたが、大使はどのように体験しましたか。
近代オリンピックと古代のオリンピックには、いくつかの根本的な違いがあります。それらを並べてみるとすれば、古代オリンピックとは参加自体が神々への犠牲であったということを覚えておく必要があります。これが意味することは、動物の犠牲、寄付、神への献酒に加え、すべての参加者は、その努力を神々に捧げるということです。
現代のオリンピックはそれとはまったく異なります。もちろん、これは現代社会によって定義されているためであり、オリンピックの重要性を損なうものではありません。
現代社会では、神々への犠牲を提供することはありません。ですが、競技に挑む者は競うことで他の競技者への贈り物(犠牲)として自分自身を提供し、それによってお互いが成長し、より良くなることを助けていくということになります。これが現代の社会のすべてです。私たちは協同組合ですが、同時に対立するのではなくても社会に敵対もしています。つまり、現代のオリンピックが実践しようとしていることは、他の人々にも機会を与えることです。その手によって自分自身を試し、自らがより良くなるか、他者をより良くするということにほかなりません。
犠牲は一種の相互の犠牲ともいえます。それは日本の武道でも提示されているものです。たとえば柔道の鍛錬の際、相手は一方の訓練のために、片方の存在を提示することになります。つまり双方共にパートナーを尊重しなければなりません。
その意味で、現代のオリンピックは、他の選手と一緒に走ることでベストを達成し、それらの選手をさらに上のレベルに引き上げることを助ける機会を提供しています。
それが犠牲と言えるでしょう。それは常に私にとっては平行線を描くということでしょう。
東京オリンピックについて
東京オリンピックの主な際立った特徴としては、無観客であったということでしょう。古代と現代、両方のオリンピックにとって観客は重要でした。しかし、この東京オリンピックでは、観客として競技を現場で見る人は物理的に存在していませんでした。
聴衆は各地域に広がっていましたが、実際の会場には人はおらず、空間だけでした。応援もありませんでした。唯一の応援は競技者からであり、これは非常に興味深いものでした。オリンピックチームが会場を埋め、みんなを応援してくれました。
東京オリンピック2020は、通常のオリンピックとは極めて異なっていましたが、それだからと言って今回のオリンピックの競技の特徴が特に違っていたということではないでしょう。
Q:オリンピック以外に、日本からどんなことを持って帰国なさるのでしょうか。
残念ながら、少なくとも1年半は新型コロナウィルス感染拡大のために、ややイライラすることになりました。妻と私はとても強い主義主張を持っておりましたし、更にはギリシャからの非常に重要なミッションも受けていたので、いろんなことを開始していました。2018年に駐日大使に就任した際、当時の外務大臣であるニコス・コジアス氏と日本のカウンターパートナーである当時の外務大臣、河野太郎氏との間で会談がありました。その際に、当時の「両国間の、素晴らしいのではあるけれどやや遠い関係」を再活性化しようということが話し合われました。そうした背景があり、妻と私はより良い関係を再活性化するために取り組みを始めていました。
2019年の初めには外務大臣のヨルゴス・カトゥルガロス氏が日本を訪問しました。その後、2020年初頭に経済研究開発、エネルギー等の分野での協力のあり方を模索するため、副大臣レベルの閣僚グループも訪問しています。日本には、その他にも副大臣2名と外務大臣のコスタス·フランゴヤニスが訪問しています。
こうした訪問実績があったことは、新型コロナウィルス感染拡大の前に、どれだけの努力が払われたかを示しています。その後はすべての会議が延期、キャンセル、またはオンラインで開催となってしまい、実際には役に立ちませんでした。
私達はまだこうしたプロセスを存続させようと努力を続けており、私が駐日大使に就任した際に開始となったいくつかの合意にも取り組んでいます。新型コロナウィルスの感染拡大が後退、もしくは治まって、また両国の関係強化に向けた力強い努力を再開できることを願っています。
外交官というのは中立でなければなりません。ギリシャについて日本人に説明すると同時に、日本をギリシャ人に説明することもしなければならないのです。外交官とは一方的ではなく、両国のために尽くさなければなりません。
そういう意味で外交官として、日本をギリシャに伝える仲介者であろうとしました。その目的は、ギリシャ本国の外務省の為だけでなく、ギリシャ社会の為でもありました。
一例を挙げれば、ギリシャの日本大使館が主催・主催するギリシャでの日本週間の紹介にも尽力してきました。
この日本にあるギリシャ大使館からできることは何でも支援してまいりました。当時の同僚と協力できてとてもうれしかったです。もちろん、文化交流もありました。ですが先ほどお伝えした通り、ほとんどの時間、実質的に1年半ですが、新型コロナウィルス感染拡大のパンデミックのために苛立っていました。
Q:日本とギリシャの共通点は何ですか?
どちらも海洋に関わる超大国であるということが共通点でしょう。両国の主な資産は、商船艦隊です。海の力を持つということは海に依存していることを意味します。
日本は島であり、ギリシャは部分的に大陸ですが、ギリシャには海から80キロメートル以上離れた地理的地点はありません。それが海の力という意味です。同時に、私たちは同じ経済発展国のグループ(つまり自由経済であり、規則に則った社会)に属しています。
このように、ギリシャと日本は非常に近いという理解に基づいています。両国を分ける唯一のものは距離ですが、両国は一緒になる運命でしょうね。
海軍や海軍のコミュニティは、信じられないかもしれませんが、通常、かなりシャイなところがあります。ですがギリシャと日本は協力し、商船のために新しい環境要件を形作ることができました。ギリシャと日本は世界で1番目と2番目に大きい艦隊について話し合っており、つまり今後歩調を合わせていくことになるでしょう。艦隊の規模については、ギリシャが1位、日本が2位です。
観光について
Q:ギリシャは世界で最も人気のある観光地の1つですが、日本人観光客の誘致を促進するために、どんな努力をなさっているのでしょうか?
ある時点においては、観光業はギリシャのGDPの18%を占めていました。つまり、ギリシャにとって、観光は常に非常に重要なセクターだということです。 2019年では、新型コロナウィルス感染拡大以前は、ギリシャの観光は成長を続けていました。実質的には3000万人程の観光客が訪れており、これは日本に訪問する観光客の数と同じくらいの数となります。
しかし、日本からの観光客数はとても少ないです。ギリシャ人が観光目的で日本にやってくるのも少なく、年間約3万から4万人となっています。今後は、両国への観光客誘致が共に成長していくのを見て参りたいですね。
その主要とみられる要因の1つは、日本からギリシャへの直行便がないことです。ただし、ギリシャと日本両国間の移動は、文化的、政治的背景、そして両国の近さ(親密さ)はそうした問題を非常に容易に解決に導くことでしょう。課題は主に、この近しい関係をさらに発展させることです。両国間では協力と観光についての議論が続いています。
ですが、それは観光客の数を増やすことだけではありません。ギリシャにとってより重要なのは、観光がギリシャ社会の発展に何をもたらすかということです。新型コロナウィルス感染のパンデミックによって海外旅行や観光が阻まれてきており、それが続けば政治問題になります。観光はギリシャの現代社会にとって不可欠な要素であり、協力を促進し、社会の発展を可能にする接続性を理解するのに役立ちます。これを長期間に亘って止めてしまうようになれば、外国人に対しての不寛容さなどの政治的・社会的課題が生まれます。何らかの理由によって閉鎖、または閉鎖されていく国は、部外者や難民に対して不寛容という傾向があります。したがって、経済的な理由だけでなく、観光も非常に重要であると信じています。
研究開発について
Q: ギリシャと日本の間で、さらなる協力を望んでいる分野は他にはどのようなものがありますか?
投資は、相互利益を生み出すことができる重要なセクターです。ギリシャは経済危機から抜け出し、現政権は一連の大規模な経済改革に着手しました。また、日本企業は外務副大臣や閣僚グループの訪問を大変歓迎してくださいました。
日本の大企業がエネルギー、特に再生可能エネルギーを含む様々な分野の主要プロジェクトに投資することについて、いくつかの議論がありました。また、ギリシャは欧州連合の大きなネットワークの一部であるため、このイノベーション分野で研究開発を共有する可能性は大いにあると思います。
ギリシャと繋がるということは欧州連合とつながることです。日本の企業はそのネットワークからすべてを得ることができることでしょう。
環境について
環境問題は非常に重要です。ギリシャと日本の両国にとって、環境保護、環境の再開発、清浄化に関連するすべての技術は大変に重要です。
たとえばですが、サントリーニ島は77平方キロメートルの島ですが、その島には独特の環境があります。サントリーニ島の土壌はとても乾燥しており、強いアルカリ性でもあります。ここは、ヨーロッパで非常にまれな地域の1つで、ヨーロッパ全土に広がったフィロキセラの流行には見舞われませんでした。(*ブドウネアブラムシは、もともと北米東部に自生するブドウ樹の害虫)。それは、フィロキセラという特定の外注は、この(アルカリ性の)土壌では生き残ることができなかったためです。
とても古いワインヤード(ブドウ畑)は、日中は海によって灌漑されています。夜間に水分が蒸発して凝縮し、ワインヤードが必要とする湿度がもたらされます。これはとてもデリケートなシステムであって保護していく必要があります。
日本は非常に発展した工業国でありますが、工業は汚染要因ともなっています。ギリシャと日本の両国において、こうした技術全てが必要です。日本の企業は汚染と闘うために多大な努力もしていますが、そうした実績はギリシャがさらに深く協力を求めている分野でもあります。
最後に
日本を離れるに際し、駐在中に直面した状況やさまざまな課題にもかかわらず、私たちが達成できたことを非常に誇りに思っています。後継者である次期大使には、私たちが過去3年半に亘って取り組んできたイニシアチブを継続し、やり遂げていただきたいと願っています。
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