角田裕毅 日本人らしからぬF1初シーズン
2021年のF1最終戦アブダビGPで自己ベストとなる4位でフィニッシュ、F1デビューイヤーを最高の形で終えた角田裕毅。グランプリでのパフォーマンス、獲得ポイント数を見る限り、彼は紛れもなく2021年の「ベストルーキー」であった。
同じく2021年にF1デビューを果たした、ミック・シューマッハ(2020年F2選手権優勝)、ニキータ・マゼピン(同年ランキング5位)を抑える活躍でファンを沸かせた角田だが、彼のF1ファーストシーズンは、ミスやチームへの失言の頻発により彼のキャリアに「疑問」を残す結果ともなった。
印象的なスタート、中盤の苦戦、そしてベストパフォーマンスでシーズンを終えるというのは角田の短いキャリアを振り返ると、彼のトレードマークとなっているようだ。
F2時代には初戦でトップタイムをマークするなど序盤で才能を示し、中盤では低迷したが、終盤は大健闘し、好成績でフィニッシュした。
2021年F1第1戦バーレーンG Pでも同様のパターンでポイントを獲得し、9位で終了。これはミック・シューマッハ、マゼピンでさえも成し得ていない快挙であった。
角田のパフォーマンスにはF1ファン、エキスパートからも賞賛が送られ、バーレーンP G でのチームラジオ音声からは「9位!素晴らしい!今シーズンは楽しくなる!」との声が上がり、その興奮が伝わった。
続く第2戦以降はドライバー、チームメンバー、そしてフランツ・トストの精神力の強さが試されるレースとなった。
角田のメンターでありアルファタウリチーム代表、支援者でもあるフランツ・トストの毛量がもっとあったならば、きっと白髪だらけになっていたことだろう。
デビュー2戦目となったエミリア・ロマーニャGPイモラとフランスGP予選のポール・リカールではQ1でAT02をクラッシュさせ、アゼルバイジャンGPのバクーでもクラッシュ。しかしバクーではQ3の壁を初めて突破した。角田は合計8回のQ1敗退を経験しているが、これはチームメイトのピエール・ガスリーには見られない。
シーズン中盤はフラストレーションを抱えるパフォーマンスが続いた。イモラでの残念な予選から挽回するため、ポイント獲得を狙うレースでは、生憎の雨に見舞われる中、6度のF1世界チャンピオンであるルイス・ハミルトンにオーバーテイクを仕掛けるが、バリアに衝突。レーシングライン外側の滑りやすいコンディションを過小評価していたようで、ヘルムート・マルコ、フランツ・トスト両氏より非難を浴びる結果となった。
チームメイトのピエール・ガスリーがシーズンを通して鮮やかに示したように、2021 AT02 がシーズン開始直後から非常に優れたパフォーマンスを発揮したことを考えると、当然の批判と言える。
スクーデリア・アルファタウリは、マクラーレンやアルピーヌなどのチームと、コンストラクターズチャンピオンシップで 4位を争うことが十分可能であった。これはスクーデリア・アルファタウリ (前身チーム:スクーデリア・トロ・ロッソ) が長いF1の歴史の中で達成していない成績であり、角田裕毅のコストのかかるミスは、チームにとってさらなる痛手となった。
そんな角田に追い討ちをかけるように外部からも批判の声が起こる。F1グランプリ勝者であるデビッド・クルサードは「角田裕毅がルーキーシーズンにクビにならなかったこと、2022年もF1に残れることに驚いている」と語った。
一方角田自身も、「シーズン前半はかなり不安定だったので、僕としても来年も残留出来ることに少し驚いた」と振り返り、「クラッシュが続き、チームにたくさんのお金を使わせてしまいました」と反省の色を示した。
その言葉を聞いたクルサードは唖然とし、「彼はどこの惑星から来た?あれはレーシングドライバーの発言ではない。小さなバッグに荷物を詰めて今すぐ家に帰るべきだと思う」とチャンネル4の取材にて応戦する事態となった。
最悪なのは、角田裕毅の度重なる失言は、チームのみならず日本のファン・サポーターをも失望させていることだ。チームラジオでのチームを非難する発言や暴言は、彼自身を含むチーム全体の失敗をも示唆する。
元世界チャンピオンのジェンソン・バトンは、「彼は怒りを少し抑えなければならない。チームはあのような話し方を好まない。彼がこのスポーツに留まりたいのなら、特に(チーム代表の)フランツ(トスト)に対しては。」とし、公の場ではなくチームと話し合う機会が必要と、スペインGPでスカイスポーツのテレビに出演した際に語った。角田の出身地・日本でよく思われない、“自分の個性”を包み隠さず見せる行為で、自身とチームの面子を失いかねない。
一方、自己批判と彼が信頼を寄せる人々からのフィードバックが功を奏し始める。ヒーローが血の滲むようなトレーニングを通じて奇跡的な変容を遂げる映画のモンタージュのように、角田は変化を遂げることとなる。
まず角田は、英国のミルトンキーンズからイタリアのファエンツァに移動するよう命じられたことにより、毎日プレイステーションで遊び、デリバリーフードを食べる生活から、アルファタウリチームとより多くの時間を過ごす生活へとライフスタイルが大きく変化。
「引っ越しによりアプローチ方法に変化があった」とイタリアメディアAutosprintが引用したように、角田は、「イタリアに来る前はただの怠け者でした。練習が終わったらすぐ家に帰って、プレイステーションで一日中遊んでいました。ファエンツェでの毎日のスケジュールは、ミルトンケインズでの生活とは全く違い、毎日数時間のフィジカルトレーニング、工場見学、カートトレーニング、シミュレータートレーニング、そして最も重要な英語のレッスンがあります。(言語は)多くの日本人ドライバーや学生が苦労しています。」と語った。
彼の2021年シーズンは、チームの前任者の1人であるアレクサンダー・アルボンの指導と、チーム代表のフランツ・トストからの揺るぎない信頼により、後半にかけて向上する。
角田はシーズンの終わりにかけて、いくつかのGPでポイントを獲得し、信頼に応えた。バクーでは7位を獲得し、最終ラップでバルテリ・ボッタスを華麗にオーバーテイクしたアブダビでは4位を獲得した。
予選、レースでの角田のパフォーマンスが後半で向上したため、来季スクーデリア・アルファタウリ残留への疑念は無くなったように見えるが、フランツ・トストの心を繋ぎ止めるだけのシーズン幕開けと幕切れでのパワフルな活躍が、F1にとどまるにはまだ十分ではないとも見られる。しかし、彼はこれまでに目を見張るような成長を遂げ、F1で戦う実力と才能、ミスに直面する力を見せつけてきた。