セント・パトリックス・デーを祝って カヴァナ駐日アイルランド大使インタビュー
今年も3月17日にセント・パトリックス・デーを迎える。この日はアイルランドのナショナルデーであり、日本でもすっかり有名になった。ここであらためて駐日アイルランド大使にセント・パトリックス・デーおよびアイルランドと日本の関係について話を聞いた。
カヴァナ大使は駐在も二度目となり、すっかり日本通でもあり、日本語も堪能だ。大使のコメントは聖パトリック·デーについて以外にも多くの文化、二国間の関係にも及んだ。今、ヨーロッパを知る上でも、是非ともお読みいただきたいインタビューになった。
最近のアイルランドと日本の関係の進展をどのように見ていらっしゃいますか?
アイルランドと日本の関係は、何十年にもわたる緊密な協力の上に築かれた非常に強力なものです。私どもは、民主主義、代議政治、普遍的な人権、法の支配、そして国連と再構築されたWTO(世界貿易機関)を中心とした国際秩序を含む多くの価値観を共有しています。
2020年に立ち上げられたアイルランドのアジア太平洋戦略は、アジア太平洋地域の重要性を外交政策に組み込んだものです。私どもの戦略の核となるのは、この地域のすべての国々とアイルランドとの関係を強化することです。この戦略の中で日本は、アイルランドと共通の価値観と、政治的、経済的、文化的、そして人と人との強い結びつきにより、特に重要な位置を占めていると言えます。
3月17日のナショナルデーに先駆け、3月13日から16日まで、アイルランド本国からピーター・バーク都市計画・地方自治体担当大臣が来日します。駐日アイルランド大使館では、彼の来日を心待ちにしております。アイルランドの大臣級の政治家が来日するのは、2019年以来です。バーク大臣の来日は、アイルランドのナショナルデー「セント・パトリックス・デー」を記念し、毎年この時期にアイルランド政府閣僚が世界各地を訪問する活動の一環です。今年、アイルランド政府閣僚は33都市以上を訪問する予定です。
しかし今年は、本来は祝賀ムードにあふれるセント・パトリックス・デーに暗い影が落ちており、私どもは、民主主義と法の支配が当たり前ではないと思い知らされています。特に今年は、国内および世界中のアイルランド人がウクライナの人々とともにあり、思いやり、共感、連帯を思い起こし、それを称えるる機会ともなっています。それゆえ、アイルランドはこのセント・パトリックス・デーを単なる祝日ではなく、連帯の時とし、民主主義と人道主義の価値へのコミットメントを改めて表明することにより、アイルランドのアイデンティティを示してまいります。
今年度、駐日アイルランド大使館が主としている優先事項は何でしょうか?
過去2年間は困難な状況にもかかわらず、経済、文化、人と人の交流といった分野における日本との強いつながりを継続的に発展させようと、在日アイルランド人へ領事およびその他のサポートを提供し、新型コロナウイルス感染拡大の影響を緩和することに注力してきました。
しかし、今年こそは、新型コロナウイルス感染拡大前の状態に戻り、物事をさらに発展させることが期待されています。バーク大臣の訪問は、この過程において重要であり、近い将来、日本との関わりが増えることを楽しみにしております。
アイルランドにとってのさらなる優先事項は、今後50年以上にかけて二国間の交流を新たなより高いレベルに引き上げるために、日本とともに最新の意欲的な枠組みの協定準備を行うことです。この協定は、今後数ヶ月での締結を目指しております。
また、東京に新たに最先端のアイルランド・ハウス(アイルランド大使館新庁舎)を建設するプロジェクトも進んでおります。このアイルランド・ハウスでは、アイルランドが日本に提供できるすべてのものをご紹介する予定です。また、アイルランド独立以来100年の歴史の中で、アイルランド国外における最大の投資である本プロジェクトは、アイルランドがいかに日本へコミットしているかを象徴しております。 2025年までに世界規模でアイルランドの拠点を今の2倍にすることは、グローバル・アイルランド戦略の一部であり、アジア太平洋地域戦略の一環でもあります。
アイルランドが国連安全保障理事会のメンバーに選出されてから2年目を迎え、日本との政治的関係をいっそう深めております。この繋がりをさらに発展させることは、当館の今年の重要な優先事項です。日本とアイルランドは、WTOやWHO(世界保健機関)を含む再構築された活動的な多国間機関の仲間とともに、国連を中核とした規則に基づく国際秩序を支持しています。
貿易関係をさらに強化するための優先課題は何ですか?
アイルランドと日本の貿易は、あらゆる国が近年直面している世界的な課題にもかかわらず、すばらしい回復力を示しています。アイルランドと日本の商品とサービスの双方向における二国間貿易は、2019年に138億ユーロに達し、2020年には約160億ユーロへと成長しました。
日本には約60社のアイルランド企業が拠点を置き、150社ほどが定期的に日本への輸出に取り組んでいます。主にライフサイエンスと金融サービス・フィンテック分野における革新的なアイルランドの企業は、現在、日本で2,000人以上の日本人、それも主に院卒を雇用しています。アイルランドから日本への食品および飲料の輸出も好調で、2021年には20%増を記録しました。
さらに、日本は、アジア太平洋地域からアイルランドへの外国直接投資の最大の源となっています。アイルランドで最も強力な分野の中には、金融サービス、ICT、ライフサイエンスがあります。アイルランドは、EU(欧州連合)で唯一の英語を公用語とする国であり、安定し、信頼を得ている献身的な加盟国として、今後、日本企業にとってさらに魅力的な取引先になるのではないでしょうか。
聖パトリック·デーは、何十年もの間に亘って東京の文化的なイベントの象徴でもありました。ビル・ハーシーは、何十年にも亘り、東京のソーシャルカレンダーの重要なイベントの1つとして聖パトリック·デーを取り上げていました。新型コロナウィルス感染拡大防止のための安全性を考慮した上で、今年のアイルランドはどのような計画をお持ちでしょうか?
残念ながら、通常毎年行われる日本のセント・パトリックス・デーのイベントの多くは、新型コロナウイルス感染拡大のために、2年連続で延期とするか、もしくはオンラインおよびバーチャルに移行しなければなりませんでした。それでも、札幌から熊本にまで及ぶ在日アイルランド人の方々とアイルランドにとっての日本人の友人の皆様が、誰もが楽しめる一連のセント・パトリックス・デー関連イベントを開催し、このナショナルデーをお祝いします。目玉の1つは、3月12日に横浜で開催されるセント・パトリックス・デーのパレードです。ここでは数例を挙げるにとどまりますが、島根県松江市の美しい松江城、三重県伊勢市の象徴的な大鳥居、横浜の大観覧車「コスモクロック21」、大阪で人気の天保山大観覧車、福井市のハピテラスをはじめとする数々の建物やモニュメントが、今年もアイルランド政府観光庁による「グローバル・グリーニング」キャンペーンに参加します。
今年は、ナショナルデーに対面でのレセプションを開催する代わりに、3月17日午後6時より全国どこからでもご参加いただける「バーチャル・セント・パトリックス・デー・レセプション」を開催いたします。本レセプションでは、アイルランドの首相から在日アイルランド人コミュニティおよび日本の友人の皆様に向けたメッセージや、アイルランド文化の魅力が詰まったパフォーマンスを予定しています。*
アイルランドの文化は世界的に有名であり、音楽、ダンス、文学は日本にも深い印象を与えています。アイルランド大使館は、なにか、公開イベントを計画していらっしゃいますか。
アイルランドは、文学、音楽、ダンスの分野において、日本と特に強い文化的なつながりを持っています。今年はジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』が出版されてから100年を迎えました。当館はは、日本で長く活動している「日本ジェイムズ・ジョイス協会」と協力し、6月16日の「ブルームズ・デー」を祝います。
アイルランド島から輩出された4人のノーベル文学賞受賞者の1人シェイマス・ヒーニーは、頻繁に日本を訪れていたばかりか、日本の文学や偉大な現代作家との交流を大事にしていました。今年は、アイルランドと日本の文学関係を促進するため、初の「ヒーニー賞」を記念する式典を開催いたします。本式典は「国際アイルランド文学協会日本支部(IASIL Japan)」とともに開催する予定です。実は「国際アイルランド文学協会」は、アイルランドの本部よりも日本支部の方が発展しており、世界各地の支部の中で最大規模を誇ります。
もちろん、小泉八雲の日本名で知られ、アイルランドと日本の架け橋となった作家で翻訳家のラフカディオ・ハーンも常に重要な存在です。アイルランドは、主に英語を媒体として、明治時代以前の日本文化を世界の読者に伝えたハーンの業績を誇りに思っております。彼の繊細で共感を呼ぶ著述がそれを可能にしたのです。
音楽の分野、特にアイルランドの伝統音楽の分野では、日本との関係は深く、世界で最も発展した関係を築いた国の1つと言えます。日本には、世界的に最も活動的で、支持されている 「アイルランド音楽家協会(Comhaltas Ceóltóirí Éireann)」の支部があります。この支部は、日本におけるアイルランド音楽の多くの愛好家に働きかけ、支援し続けています。
ダンス分野では、日本におけるアイリッシュ・ダンスへの高い関心を引き続き支援してまいります。今年のバーチャル・レセプションで披露する文化的パフォーマンスの1つは、東京のタカ・ハヤシ アイリッシュダンスアカデミーによる「ロード・オブ・ザ・ダンス」でお馴染みの演目です。
ご協力いただいたカヴァナ大使およびアイルランド大使館の皆様に、心からの御礼を申し上げます。
*3月17日(木)18時よりアイルランド政府のウェブサイト(https://www.ireland.ie/japan)で配信される「バーチャル・セント・パトリックス・デー・レセプション」に、読者の皆様をご招待いたします。
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