【インタビュー】ヘリ・アフマディ駐日インドネシア大使

インドネシアと日本の外交関係について教えて下さい

日本は様々な分野においてインドネシアの戦略的パートナーです。特に新型コロナウイルス(Covid-19)のパンデミックの真っ只中の景気回復において、両国間の協力関係がより強固なものになった事へは疑いの余地がありません。パンデミックにより、世界の国々、特にインドネシアと日本は、共に回復を遂げる為、よりオープンで相乗的な関係になりました。インドネシアは、国連が制定している持続可能な開発目標(SDGs)の達成を加速するため、貿易・投資・産業の課題においても協力関係を築けるよう日本に呼びかけています。これは、インドネシアが議長国を務めるG20のテーマでもある『共に回復し、より強く回復する』への真のサポートの表れでもあり、立ち直る力を持つ持続可能な世界経済を回復させる為の取り組みです。

ヘリ・アフマディ駐日インドネシア共和国特命全権大使
ヘリアフマディ駐日インドネシア共和国特命全権大使

インドネシアでの新型コロナウイルスの状況、対策はどのようなものでしたか?日本との協力関係はありましたか?

インドネシア政府は、健康と経済的利益とのバランスを取りながら管理をしてきました。2020年11月以来、インドネシアと日本は新型コロナウイルスの取り扱いにおいて多くの協力を重ねてきました。医薬品や医療機器、保健セクターの人材育成、保健サービス、医療情報技術、高齢者向け保健サービスにおいて協力してきたことに加え、日本からのワクチン支援も受けました。2022年1月末までに、200万回分以上のアストラゼネカ製のワクチンがインドネシアに到着し、2021年には、日本より約420万回分のワクチンがインドネシアへ提供されました。

この支援は、両国間の戦略的パートナーシップ強固にする、特にインドネシアの経済回復を加速するしおいて具体的な支援だといえます。これまでも、インドネシア政府と日本政府の間では、様々な保険分野の協力が行われており、2021年6月18日には保健分野における協力覚書(MoC)を通じてワクチンの分野におけるパートナーシップが確立されました。この保健分野における覚書には、大阪大学を通した、食品、健康、バイオテクノロジーでの協力も含まれます。これは、ワクチンの分野で両国間の保健分野での協力を実施し、国の経済回復を加速するための取り組みにおいても重要なステップです。また、保健セクターにおけるもう1つの協力関係は、医薬品規制に関する協議の枠組み、協力体制に関するインドネシア食品医薬品局と日本の厚生省との間の協力覚書(MoC)です。

ジャカルタからヌサンタラへの首都移転計画について教えて下さい

ジャカルタからヌサンタラへの首都移転計画
ジャカルタからヌサンタラへの首都移転計画

首都を移転する主な理由の一つは、(ジャカルタのある)ジャワ島の人口負担が大きくなっていることです。特にジャカルタ市街では人口密度が非常に高い。2015年の人口調査によると、インドネシア人の約56%がジャワ島に集中し、他の島での人口密度は10%未満となっています。一方、ジャワ島よりもはるかに広大なカリマンタン島の2021年12月31日時点での人口密度は、総人口2億7000万人の約6%に過ぎません。

インドネシアの新首都となる街はヌサンタラと呼ばれています。ヌサンタラ(Nusantara)は『島間』を意味し、 インドネシア語で”nusa”は「島」、”antara”は「中間」を意味します。ヌサンタラは東カリマンタン州、ボルネオ島の東海岸に位置しています。ボルネオ島はインドネシア最大の島ですが、人口は比較的少なく僅か6%です。将来の首都となる街は、海線に非常に近くなっています。

もう一つの理由は、ジャワ島のインドネシアの経済成長または国内総生産(GDP)への経済的貢献が圧倒的であるのに対し、他の島々の経済的貢献が遥かに遅れているという事です。インドネシア中央統計局の2021年のデータに基づくと、ジャワ島のGDPへの経済的貢献は約58%ですが、他の島に至っては約3%です。

新首都・ヌサンタラは、東カリマンタンでの新しい首都の名前として選ばれました。これは、この言葉が長い間に亘って国際的に広く知られているためです。ヌサンタラという名前は、14世紀頃のマジャパヒト時代に生まれました。

多くの国が新しい首都ヌサンタラに投資をしたいと考えていますが、今はまだ、インドネシア政府は新首都開発の準備に注力している状況です。

何十年にも渡り、日本とインドネシアは非常に強力な商業関係を保ってきました。日本はこの首都移転プロジェクトにおいてどんな貢献が出来るでしょうか?

政府の出費は約20パーセント程度と予想しています。残りは電気や水道などのインフラを整える外国企業を含む企業資本に頼ることになるでしょう。インドネシア政府が開発を全て担うというよりは、いわゆるPPP(官民パートナーシップ)と呼ばれる協力に繋がります。インドネシア国内だけではなく、世界中から多くの投資家が参加することになるでしょう。

このプロジェクトの着工直前には、ソフトバンクがボルネオの新首都建設プロジェクトへ投資をしないと声明を出しましたが、数多くの投資家がこのプロジェクトを支援しているので、心配する必要はありません。もちろん、興味を持っている日本企業もいくつかあります。インドネシア大使館とインドネシアからの代表者とで、日本企業の関与について協議を行っている森元首相とも会談を行いました。新首都では、スマートシティ構築を進めており、日本はこの分野で多くの試みを行ってきたと思うので、(新首都プロジェクトにおいても)経験と新しい試みを重ねていくだろうと確信しています。

インドネシアは天然資源が豊富で、ASEAN内でも日本の主要貿易国であります。近年はどのような製品・産業を推進していますか?

インドネシアと日本は、特に産業部門において、包括的な経済協力の向上に引き続き努力しています。インドネシアと日本の間には、現在、一般的な検討交渉の段階にある日本インドネシア経済連携協定(IJEPA)を含む多くの経済協力があります。次に、新製造業開発センター(MIDEC)のコラボレーションもあります。

日本政府も自動車産業分野での協力強化に関心を持っています。この技術協力プロジェクトには、経済産業省(METI)や国際協力機構(JICA)など、日本の様々なパートナー機関が関わっています。これにより、インドネシアを輸出先の生産拠点にするために、自動車産業セクターへの投資を増やすことが可能となってきています。

日本との関係を語る、ヘリ・アフマディ駐日インドネシア共和国特命全権大使
日本との関係を語る、ヘリアフマディ駐日インドネシア共和国特命全権大使

現在、日本の四輪車以上の産業会社は21社あり、年間200万台以上の生産能力を持ち、3万8千人の直接労働者が尽力しています。総投資額は140兆ルピアに達し、業界のバリューチェーンに沿って働く約150万人の人々がそれによって生計を立てています。日本は、電気自動車セクターを含め、インドネシアへの投資に引き続き取り組んでいます。

両国はまた、新しいコラボレーション、すなわち官民による「パブリックプライベートトラック1.5」に合意しました。この合意には、地域および世界のサプライチェーン、インフラ開発、デジタル経済、人材育成、持続可能な産業における協力を強化するための革新的で持続可能な経済社会のための日本インドネシア共創パートナーシップが含まれます。いずれもインドネシアの開発優先事項であるセクターです。

2021年1月から12月までのインドネシアと日本の貿易総額は324億米ドルであり、2020年の同時期である243億米ドルより33.5%ほど高いレベルを示しています。投資額では、2021年の日本のインドネシアへの投資額は6,931件で23億米ドルであり、インドネシアの投資家の中で5位にランクされています。

現在日本は、コロナ規制の一環で国境管理を実施しています。インドネシア出身の学生たちにとっても入国規制がありますが、今後進展はあるでしょうか?

はい。私は昨日、入国検疫で3日間過ごしたお母さんに出会いました。今日、彼女とその友人は、学生寮へ入室する許可が下りました。彼女は1年半以上も前から(日本留学に向けて)勉強を始めており、(入国が遅れたことは)とても残念な事です。今までオンライン授業で勉強し、日本の入国制限が徐々に緩和され、観光客や非観光客の入国を許可するに至っているので、学生の入国についても、より一層の改善を期待しています。インドネシアの熟練労働者の入国希望者は、入国制限が緩和され、既に日本に入国しています。報告によれば、ある一つの会社では、約600人の学生を研修生として派遣する予定だそうです。来年には1,000人から2,000人ぐらいの来日が可能になるでしょう。年末までに、ある企業は約6,000人を派遣すると予想されています。この動きが良いスタートになることを願っています。

インドネシア大使館が2022年に取り組んでいるプロジェクトについて教えてください

東京・在本邦インドネシア共和国大使館にて
東京・在本邦インドネシア共和国大使館にて

今年度インドネシアは、G20の議長国を務めています。他の議長国のやり方とは違う方法で、日本とのイニシアチブを持ちたいと思います。現時点で、インドネシアもサミット中にB2B間の協力を発表したいと考えています。例えば、日本とインドネシアだけでなく、日本・インドネシアと他の国、もしくはもっと多くの国とも、ということです。今回、インドネシアは、より良い具体的なプロジェクトとして、3つのことに焦点を当てたいと考えています。一つ目は健康、二つ目はエネルギー転換、三つ目はデジタルトランスフォーメーションです。

今回は、日本からインドネシアへの出張の時からすでにミッションがあります。レポートを受け取りました。彼らはすでにバリにいて、日本と協力する機会をいくつか見ています。もちろん、経済産業省の萩生田大臣がアリフィン大臣と署名したMOC(協力覚書)もすでにあります。

ジャカルタでは、アジアのネットゼロ排出量に関するインドネシアと日本のイニシアチブについて話し合うという経済産業省のミッションがあります。それは岸田首相がASEANを支援し始めるというコミットメントです。岸田首相はこのプロジェクトの共同イニシエーターとしてインドネシアを望んでいます。

さらに重要なこととしては、来年は日本がG7議長になり、インドネシアがASEAN議長になるということです。インドネシアと日本は外交樹立65周年を記念し、またASEANと日本の関係は50周年を記念します。ですから来年はとても重要な年になると思います。私たちは、健康、エネルギー、そしてデジタルトランスフォーメーションについて、何らかのイニシアチブを持って、今年から開始したインドネシアと日本の協力のための継続的な議題を持ちたいと思っています。もちろん、ASEAN諸国とともにインドネシアにも拡大して来年も継続していきます。これにより、日本とインドネシアの戦略的関係を強化することができるでしょう。

スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島など1.7万もの島からなるインドネシアは東南アジアの中でも屈指の観光地で、世界でも最も美しい熱帯雨林を有しますが、日本からの観光客誘致、観光促進においてはどのような宣伝活動を行っていますか?

東京のインドネシア大使館は毎年、旅行代理店/ツアーオペレーター、ジャーナリスト、インフルエンサー、および日本でのインドネシアの観光を促進に関わっている代表的な関係者を連れて、インドネシアへの親睦旅行を行ってきています。駐日インドネシア大使館によるソーシャル·メディア·チャネルやASEAN日本センター、日本財団などのさまざまな機関との協力による観光振興は、さまざまな形で強化され続けています。

2021年末、駐日インドネシア大使館は、2つの主要な日本のメディアであるNHKと共同通信を招待し、外国人観光客の訪問を歓迎するバリの観光の準備を直接見て頂きました。このプログラムから、日本のメディアは、バリが観光客を改めて歓迎する準備ができていることを日本人に直接知らせることができました。一方、2月3日には、東京のインドネシア大使館は、東京の成田空港からバリ州デンパサールのングラ・ライ(I Gusti Ngurah Rai)国際空港へのガルーダインドネシア航空の初飛行を全面的に支援しました。また、就任飛行には、インドネシアでビジネスミーティングを開いていた観光部門の日本人4名が参加しました。

3月20日にインドネシアで開催されたMotoGPイベントでは、日経新聞は、インドネシア観光創造経済省が主催する西ヌサトゥンガラとバリへのファム·トリップ(Familiarization-慣れ親しませるの略)に参加し、また、在京インドネシア大使館と協力して、Moto GPの達成度合いを確認し、日本を含む42か国からの市民のための到着ビザと無検疫政策の実施後のバリの最新の動向をレビューしました。

また、駐日インドネシア大使館では、インドネシア文化会館のバーチャルツアーを通じて、日本でのインドネシア観光の振興を行いました。この活動に参加した日本人は、インドネシアの各地域の歴史、習慣、芸術、料理に関する情報を受け取ることができました。

今年予定されている芸術・文化におけるプロジェクトについて教えて下さい

インドネシア共和国大使館にて行われたお花見
インドネシア共和国大使館にて行われたお花見

在日インドネシア大使館は、育成するという機能の実行の意味にも加え、政府関係者や日本のビジネスマンの前で公演するために、常に日本のインドネシア人の芸術と文化のグループと常に関係、コンタクトを持っています。これは、インドネシア文化芸術の日本人へのプロモーションをさらに拡大するための駐日インドネシア大使館の文化外交の一環です。

2022年にはインドネシアと日本の二国間関係の65周年に先立って、駐日インドネシア大使館は、インドネシアを日本国民に紹介することを目的としたインドネシア友好デー(IFD)2022と銘打った一連の、総合的なプロモーション活動を実施いたします。そうした活動は大阪、名古屋、福岡、札幌、仙台、水戸、横浜、沖縄、気仙沼、熊本、静岡など、日本の主要都市で行われ、イベントなども開催される予定です。 2023年のインドネシアと日本の外交関係65周年を記念する一連の活動としては、駐日インドネシア大使館は、ジャカルタ国立博物館と東京国立博物館において伝統的なインドネシアと日本の織物の展覧会を開催する予定です。

インタビューに応じてくださったヘリ・アフマディ大使に感謝を込めて。

在本邦インドネシア共和国大使館公式HP

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