上野アーティストプロジェクト2022
「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」現在開催中
上野にある東京都美術館は世界的な美術展を数多く開催していることでも知られている。しかし、この美術館のミッションはそれだけではない。若いアーティストの支援を行い、年間200を超える公募展を開催し、ユニークな企画展の開催も手掛けている。
「美をつむぐ源氏物語―めぐり逢ひける えには深しな―」展は、2017年に始まった「上野アーティストプロジェクト」の一環として開催されている。このプロジェクトは「公募展のふるさと」とも称される都美術館が、その歴史の継承と未来への発展を図るという意図をもって毎年開催している展覧会である。
第6弾となる2022年開催の本展は「源氏物語」がテーマだ。平安時代に紫式部によって書かれた源氏物語は、千年を超える時を経てもその魅力は色あせることなく、今も日本人の心に生き続ける。
この展覧会では源氏物語という唯一のテーマに沿い、絵画・書・染色・ガラス工芸という多彩なジャンルにおいて、とても自由な発想をもって作品を制作している7名の作家を紹介している。しかし、作家の個性、芸術性はそれぞれに違い、表現する媒体も全く違う。それ故に、それらの作品から紡ぎだされる「源氏物語」という世界観は、今を生きる鮮やかさをもって現代によみがえっている。
書家による源氏物語、ガラス工芸作家や染色作家などによる源氏物語などと鑑賞を進めていくと、この展覧会の最後の章には画家の守屋多々志による日本画の世界が広がる。そこに描かれた平安時代を思わせる描写の繊細さから、人々は作家、紫式部がこの物語に込めた思い、豊かな人物描写を見ることができる。守屋多々志が描いたそれぞれの登場人物の画からは、その性格、人生が伝わってくるようだ。
これは現代美術の展覧会に違いない。しかし、この展覧会には日本人がずっと紡いてきた世界があり、歴史がある。日本っていいなと思う一瞬を楽しめる展覧会だった。