パナマ大使はビジネス界出身 そのキャリアがもたらす新たな視点でパナマの魅力を語る
長年ビジネスで培われた経験を活かし、駐日パナマ共和国カルロス・ペレ大使閣下は、日本とパナマの外交関係に独特とも言えるビジネスの視点をもたらしている。
この度の、ペレ大使のインタビューでは、そうした深い洞察を感じることができた。大使は日本ではまだあまり知られていない、日本とパナマの外交関係などにまつわる歴史も丁寧に話している。さらに、パナマ運河の人気の秘密や同国のユニークな経済および観光の魅力についても語っている。観光の楽しみでもある食に関しては、「Arroz Con Pollo(アロス・コン・ポジョ、鶏肉入りご飯)」を「お好み」として紹介。特に甘いプランテン(調理用バナナ)といただくのがお勧めのようだ。
大使は1974年にパナマシティ生まれ、パナマのラテンアメリカ科学技術大学(ULACIT)で学び、2019年10月に来日している。ペレ大使は民間企業の出身というバックグラウンドを持っているが、父と祖父は外交官として奉職しているという。
日本とパナマの外交関係について
ペレ大使:日本とパナマの外交関係は長く、1904年に遡ります。1903年11月3日にパナマがコロンビアから独立を宣言した約60日後に、アジアの国として初めて外交関係を結んだ国が日本でした。これは運河があったことによって後押しされていると言えます。
日本船籍の6割がパナマ籍であり、日本は運河の第2位の利用国です。日本で使われるLPG(液化石油ガス)の8割がパナマを通過しており、パナマ運河は日本にとって重要な輸送・商業ルートと言えます。パナマは日本との間に強いパートナーシップと非常に強固な関係を築いており、その健全な関係を維持し、海運業界のお客様の声を聞くようにすることが大使としての任務のひとつでもあります。
パナマ経済の特徴について教えてください。
ペレ大使:パナマは、その地理的な位置の恩恵を受けています。地域で最も先進的な空港があり、全長約82キロの運河(パナマ運河=大西洋と太平洋を隔てる)に恵まれています。また、パナマは多くの多国籍企業が集結する経済の中心地でもあります。パナマには約140社の多国籍企業があり、日本企業も約40社あります。キャノン、パナソニック、ソニー、日本工営、トヨタ自動車などの主要な日本企業がこの地域に集まっています。パナマには “潜在力 “があるという調査結果が出ています。それは400万人のパナマ人だけでなく、ラテンアメリカの7億人の人々にも通じることでもあります。
パナマは、民主的で安全な国です。住宅や商業施設など、どのような企業でもこの地域で成長するためのインフラが整っています。また、パナマは自然災害が少ないため、データセンターやロジスティックセンターに適しています。パナマにはラテンアメリカ最大のフリーゾーンがあり、地域に貢献し成長している製薬企業があります。日本の企業がフリーゾーンに製品を送り、そこから中南米の他の地域に流通を行っています。
日本とパナマ間で、今後も成長が期待される分野は何でしょうか?
ペレ大使:数件のプロジェクトが進行中ですが、特にJICA(国際協力機構)とのプロジェクトが注目されています。パナマ首都圏都市交通3号線整備事業の建設資金はJICAによって提供されています。この整備事業は、パナマシティの西部で行われますが、推定70万人にサービスを提供することになる重要な事業です。プロジェクトの完成後は、通勤時間が大幅に短縮され、人々の生活が変わることになるでしょう。現在、パナマの人々は出勤時間に間に合うように、朝3時か4時頃に起きて、17キロメートル離れたパナマシティまで通勤移動しなければなりません。これでは家族や愛する人と過ごす時間が少なくなってしまいます。家族を中心とした生活を醸成することは非常に重要ですので、日本からの資金援助と強力なパートナーシップによって解決に至ることに、大変感謝しています。
日本政府との協力による「パナマ湾浄化事業」は、パナマシティの衛生・環境状況を改善するため、排水収集システム、排水遮集システムおよび下水処理施設の建設を目的としています。このプロジェクトの調印は2007年6月になされました。パナマは、これらの日本との協力関係とこれまでの進捗を大変誇りに思っています。
日本でのパナマコーヒーの人気は高まっています。少し詳しく教えていただけますか。
ペレ大使:日本でパナマと言えば、まずパナマ運河、次にパナマ・ゲイシャ・コーヒーを思い浮かべるでしょう。私から農業部門への提言は、貿易を継続し、カカオのような高品質の製品を生産する競争力を持つことです。パナマは、カカオとラム酒の第一級の栽培国です。パナマはカカオの栽培と輸出に観光を組み込んでいます。パナマに日本人観光客を呼び、日本に農産物を輸出するという、両国にとってWin-Winの関係になることでしょう。
コーヒー業界は順調に推移し、特に日本のコーヒー市場において良い業績を上げています。ゲイシャコーヒーは14、15年前に始まりましたが、それは偶然の産物とも言えます。ですが、このコーヒーの味が日本人の好みに合うように、コーヒービジネスを日本に浸透させなければなりません。昨年、ゲイシャコーヒーのトッププロモーターである日本のサザコーヒーは、1ポンドあたり約2,000ドルの値段を付けました。現在では、何軒かのコーヒーショップでゲイシャコーヒーを取り扱っていますが、いつもすぐに売り切れてしまいます。これは、需要が非常に高い一方で、生産量が非常に少ないことを意味します。なぜなら、どこでも栽培できるというわけではないからです。ゲイシャコーヒーは、一般的なコーヒー豆ではないので、特定の湿度、高度、温度の下、管理しながら育てなければなりません。
持続可能な観光、SDGsへの取り組みについてお聞かせください。
ペレ大使:持続可能な開発目標に向けて取り組み、次世代のために未来に貢献することは、パナマにとって非常に重要なことです。パナマ運河が直面している最大の課題のひとつは気候変動の影響です。これは運河が一定の水量で機能しているためです。通常、雨季は3月か4月に始まり、12月に終わります。しかし、今は5月に雨が降り始め、1月に止むという気候の変化が起きています。パナマでは1年を通して8ヶ月間が雨季です。運河にとっては非常にありがたいことですが、干ばつになると水位が著しく低下するため、状況が懸念されます。そのために新たな水源を探さなければなりません。運河にとって期待されるプロジェクトがあり、そのひとつは40億ドルを投資する淡水プロジェクトです。
観光に関しては、パナマが国連世界観光機関と持続可能な観光への関与に関する協定を締結していたことを、誇りに思っています。パナマは、観光の持続可能性についても共有するつもりです。もちろん、パナマには美しいビーチ、美しい山々がありますが、パナマの最も重要な財産は人だといえます。パナマには、観光客のために食事を提供し、サービスを提供したいと考えている人々がおります。ですので、将来的に、実際にもっと多くの日本のお客様を、観光目的で受け入れることができるようになるでしょう。しかし、問題は「どうやってパナマに行くか」です。日本人の休暇は短いですね。残念ながら、日本とパナマを結ぶ直行便はありませんので、パナマ大使館はその実現に向けて努力をしています。これはパナマだけでなく、ラテンアメリカ諸国への便宜を図るためでもあります。中米・南米にとって、パナマは戦略的な位置にあるため、新しい空港ターミナルが建てられ、アメリカ大陸の83都市に直行便が就航しています。直行便が最も多いとされる2番目の都市はメキシコシティで、58都市とつながっています。日本から直行便が到着すれば、中南米やアメリカのどこにでも行くことができます。
パナマの伝統工芸、モラの歴史についてお聞かせください
ペレ大使:モラはグナ・ヤラ族の工芸品です。グナ族(インディアン)とは、パナマの北部、378の島々からなるサンブラス諸島に住む先住民を指します。モラはリバースアップリケという技法を使ったハンドメイドアート(衣服)です。「モラ」という名称は世界のどこにも存在せず、パナマではグナ・ヤラ族だけが使っています。パナマの文化の一部と言えます。”世界のどこにいても、モラを見たら、その作品をとても誇りに思う。” モラはグナ族の人々にとって、漁業以外では一番の収入源となっています。
これまで日本で、ご夫婦でどのような体験をされてきましたか?
ペレ大使:来日して3年になります。日本に来たのは2019年10月、天皇陛下の即位直後でした。2020年3月、新型コロナウイルス感染拡大が私たちの生活の一部となってしまいました。東京オリンピックの期間中、私は日本のパナマ大使を務めることができ、とても幸運でした。こうした世界的な新型コロナ感染拡大があったために、他の多くの人々と同じようにテレビで観戦しなければなりませんでしたが、日本が置かれていた困難な状況や極度のプレッシャーを考えると、オリンピックを主催し、成功させた日本には最高の敬意を表するべきだと思います。
私はいつも皆さんに、”はい、私は駐日パナマ大使で、この職務にあって恵まれていると思います。”とお話ししています。なぜでしょうか?”日本は世界中から称賛される、素晴らしい国だからです” 。任命されてから初めて来日したのですが、私はいつも、”なぜ任命される前に日本を訪れなかったのか?”と自問自答しています。
たしかに、日本語というのはとても難しいです。しかし、一度来れば、距離に関係なく、2年か3年に一度は、もう一度来なければならないことに気づきます。 ですから、私はすべての友人に、日本のおもてなしや素晴らしい場所を体験することを勧めています。妻と一緒に12都市を訪問してきましたが、妻は さらに「いいえ、あと2ヶ所行くところがありますよ」と言っています。実は妻は、訪問したい場所のリストを持っています。これまで訪れた場所は、どこも特別な場所です。