オランダ大使公邸:日本文化に関する対話型講義シリーズ開催 バレエ・大相撲・宝塚歌劇・漫画・『ベルサイユのばら』
より深い日本文化の理解へ オランダ大使公邸:日本文化に関する対話型講義シリーズ開催
ジョーン・ミッチェル・ファン・デル・フリート駐日オランダ大使夫人は、その滞在中に外交シーズンの初めと終わりを目途として年2回の「コーヒー&カルチャー」と題した対話型プログラム企画した。
その目的は、日本独自を探訪することでその文化をより深く掘り下げ、EU諸国のを中心とした大使の配偶者、大使と共有することにあった。
ジョーン夫人がターゲットとした日本文化のテーマはバリエーションに富んでおり、どれも大変興味深いものだった。
具体的は、バレエのKカンパニーによる「クローズアップ:プリンシパル ダンサー 」、「和太鼓への理解と演奏」、「大相撲とはー理論と実践」、「宝塚歌劇とベルサイユのばら/オペラ」など、日本独自の文化と伝統を持ったテーマが選ばれた。
初回に日本のバレエをとり上げた際には、Kバレエが舞台に使っているオリジナルの精巧なバレエ衣装を大使公邸に展示した。
そうした衣装を間近に鑑賞した後、世界的に有名なプリンシパル・ダンサーによるQ&A セッションを開催した。
第2回目の「和太鼓の実技、演奏」をとり上げた際は、大使公邸に実際の太鼓が持ち込まれ、「オランダ大使館太鼓グループ」による演奏が参加者に披露された。 その後、参加した各国大使夫人らも和太鼓の基礎を学び、自ら太鼓の「ばち」をもっての演奏となった。
また、誰もが知る日本の国技、大相撲も紹介した。
このセミナーに関しては、日本人にとっては共通である「相撲の規範と文化」とは、多くの外国人にとっては馴染みが無いというところにビジョンを置いた。
引退した力士らの協力を得て(両国国技館前相撲茶屋はなの舞)、参加ゲストは本格的な四股を踏む動作を含んだ準備運動も行い、最後には力士との対戦、力士同士による白熱した試合を楽しんだ。更には元力士による手作りのおいしいちゃんこ鍋で午後を締めくくった。
ジョーン夫人の離日を控えた最後のプログラムは、著名な宝塚の娘役、有名な漫画家、オペラ歌手、ピアニストらによるとても充実した3部構成の企画となった。
第1部では、昭和に大活躍をした往年の宝塚スター、大原ますみ氏による講義を通じ、女性だけで構成されている宝塚歌劇の神秘的な世界を紐解いた。
続いて大原ますみ氏とジョーン夫人により「I Could Have Danced All Night」(ミュージカル『マイ・フェア・レディ』より)のデュエットが披露された。
この時、大原ますみ氏は繊細なピンクの美しいドレス、ジョーン夫人は宝塚の男役を彷彿とさせる純白のタキシードにピンクのシャツで登場し、会場を沸かせた。
ゲストも参加しての対話型セッションでは、大原ますみ氏の指導によりゲストは宝塚の名曲「すみれの花」の歌と短いダンスを習った。
その際、ピーター・ファン・デル・フリート駐日オランダ大使をはじめとする他のゲスト、オランダ大使館の日本人スタッフなども参加し、大原氏の巧みな指導の下、ブロードウェイのスタイルを彷彿とさせるダンスを楽しんだ。このセッションは想定以上に楽しく、皆、時間のたつのを忘れた。
続くセッションでは、漫画家でありオペラ歌手の池田理代子氏とその夫君のバリトン歌手の村田孝高氏、ハンガリー、米国で学び活躍を続けるピアニストの岡崎由美氏よるコンサートが開催された。
コンサートのプログラムには、オペラの有名アリア、日本の歌、宝塚の名曲など、誰もが一度は耳にしたことのある名曲が組み込まれた。
バリトンの村田氏はオペラ「カルメン」から「闘牛士の歌」、「荒城の月」などを恵まれた美声で情緒豊かに歌った。
池田氏はかつて師事した日本が生んだ世界的プリマドンナ、東敦子氏との思い出を語り、東氏から指導を受けたオペラ「トスカ」より「歌に生き、愛に生き;Vissi d’ arte, vissi d’amore」」を、このアリアの歌詞を自身の人生に重ね合わせるかのようにドラマティックに歌った。
続いて、池田氏と村田氏により『ベルサイユのばら』より「青きドナウの岸辺」と「愛さえあれば」など、宝塚の名曲をロマンティックにデュエットした。
第 3 部は「漫画『ベルサイユのばら』、その日本社会と芸術への影響」と題し、漫画家として池田理代子氏が登壇して日本社会と芸術形式への影響を語った。
日本には吉備大臣入唐絵巻(ボストン美術館所蔵)、高山寺所蔵鳥獣戯画、北斎漫画、暁斎漫画など、国宝、傑作とされる漫画が古代から存在する。しかし近代の「漫画」は芸術としてなかなか成立しなかったという事実もある。
池田理代子氏による講演とディスカッションは、1970 年代から今日に至るまでの日本文化としての漫画とその立ち位置、さらには日本の漫画は世界にどのような影響を与えているに焦点が当たった。
『ベルサイユのばら』の大ヒットによって、その世代の女性を解放し、夢を与え、日本社会を変化させた現象についても考察した。
また、フランス革命をとり上げた『ベルサイユのばら』という漫画を通じてヨーロッパの歴史は日本人にとってより身近なものになった事実にも触れている。
現在でも『ベルサイユのばら』が出版された当時の高校生、大学生時代を過ごした世代は、フランス革命について非常によく知っている。
しかし空前の大ヒットとなったこの傑作漫画の執筆当時は、池田理代子氏にとっては女性偏見に満ちた困難な時代でもあったと語っている。
池田理代子氏は、『ベルサイユのばら』によってフランスの歴史を広く知らせたという功績からフランス政府からレジオンドヌール勲章を受章し、イタリア政府からはマスター・オブ・コミックスの称号を授与されている。
また、オランダはSDGsでも先進的な国として知られている。
その為、香川県の手袋のメーカーであるイチーナがSDGsを意識した商品を展示した。それらの商品、ThinKnitは香川県東かがわ市の地場産業である手袋作りによって培われたホールガーメントの技術を使って作られている為、裁断や縫製工程が不要なのでカットロスが無く、ごみの発生を最小限に抑えている。
ジョーン·ミッチェル・ファン・デル・フリート夫人は、夫のペーター・ファン・デル・フリート大使の転勤に伴い、次の任地韓国ソウルに移る。
韓国に暮すようになっても、このような有意義ある対話型講演会を開催してくれることに期待したい。