日伊外交関係樹立160周年&シモネッタ歿後550年記念特別展:イタリアと日本の文芸作品に描かれた「美しきシモネッタ」

丸紅ギャラリーに展示されたボッティチェリの「美しきシモネッタ」

日伊外交関係樹立160周年を迎える2026年を前に、イタリア大使館から丸紅ギャラリーに一つの提案がなされていた。それはこの記念すべき年を祝して、イタリアと日本両国に共通し、丸紅ギャラリーが所蔵するボッティチェリの名作「シモネッタ」を軸とした展覧会が開催できないかという申し出であった。

日伊シモネッタ展の開会式でのスピーチ

その依頼を受けて丸紅ギャラリーでは、シモネッタについて記載がある幾つかの文芸作品に注目した。まず注目したのはイタリアの詩人、ポリツィアーノの「騎馬槍試合のための詩」であった。この作品では、シモネッタは優勝者に冠を授けるという役割をもって登場している。また、ルネサンス期のイタリアを舞台とした日本の辻邦生の歴史小説「春の戴冠」では、シモネッタとボッティチェリが主人公として登場している。さらにボッティチェリの傑作《プリマヴェーラ(春)》にもシモネッタが登場している。こうして3つの作品の「美しきシモネッタ」の存在を介することにより、日本とイタリアが結びつく日伊の友好を象徴するキュレーションプランが作られていった。

この展覧会では、シモネッタが生きたルネサンス期には、絵画とは目に見えない存在を垣間見る媒体としての機能も持っていたことに言及している。シモネッタに関わる詳細な資料と解説を読みながら、その存在とアレゴリーを理解しながらギャラリーを巡っていくと、最後に「美しきシモネッタ」があらわれる。

「美しきシモネッタ」は15歳の時に、アメリカ大陸を発見した探検家アメリゴ・ヴェスプッチの遠縁にあたるマルコ・ヴェスプッチと結婚し、シモネッタ・カッタネオ・ヴェスプッチとなってフィレンツェにやって来た。当時から絶世の美女として知られたシモネッタは、ボッティチェリなどの多くの画家、詩人たちのモデルにもなり、現代までもその存在は伝わっている。多くの芸術家に愛されたシモネッタは結核を患い、1476年4月26日に没している。今年は、シモネッタ没後550年にも当たる。

1969年に丸紅が英国で購入したというボッティチェリが描いた「美しきシモネッタ」は、日本にある数少ないルネサンス期の名作だ。丸紅ギャラリーではつなぎ目のないクリアなガラスを使うなど最大限の努力を払い、作品に極めて近づいて、細部までも鑑賞することができる。

間近で見た「美しきシモネッタ」は、色合いと細部までの描写がとても美しい。本当に魅力的な作品だ。シモネッタが身にまとった赤い衣と髪飾りの青い色は、神の慈愛を示す色と聖母マリアを象徴する色にも共通しているように感じられる。白皙の肌、豊かなブロンドの髪を持つシモネッタがまとった衣は、上にレースを被せたような繊細さを持ち、胸元や袖をかざる刺繍はとても細かい描写によって立体感までもが表現されている。ボッティチェリのこの描写をみているだけで時間のたつのを忘れてしまうほどの名作だ。

今、「美しきシモネッタ」が人々に問いかける「目に見えない存在」とは何だろうか。

ルネサンス期と言われる14~16世紀には、人々は自由を謳歌し、人文主義をあらゆる分野に掲げた。しかしその前の11世紀から15世紀にかけてのヨーロッパは、国家も宗教も分断された混沌とした時代であった。その時代を経て生まれたルネサンス期に描かれた「美しきシモネッタ」が現代人に示す目に見えない存在とは、ルネサンス期に唱えられた「反対の一致」という思想ではないか。「反対の一致」とは、たとえキリスト教であれ、異教であれ、どの宗教も神の前では同一であるとする思想だ。この思想は当時の分断の時代を終了させることを意味する。今、世界の分断に直面する人々は、ルネサンス期に描かれたこの傑作を前に、分断の収束というメッセージを受け取っているかのように思えた。

「反対の一致」思想に関するクザーヌスの著書

たった一点の作品を深く鑑賞するというチャレンジとも言えるこの展覧会は、ルネサンス期に描かれた女性を介して、日伊両国の友好、分断された世界の収束、人間性の回復という大きなテーマをもった素晴らしい展覧会だ。

日伊友好を象徴する展覧会関係者

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