バリアフリーな音楽に触れる ベルギー大使館主催 フィリップ·ラスキン·コンサート
ベルギーは美しい国土と文化遺産に恵まれ、ビール、チョコレート、ワッフルなどの明るいイメージもある、日本人が最も訪れてみたい国の一つだ。また、ヨーロッパを代表する音楽大国でもある。大作曲家として名高いウジェーヌ・イザイ、セザール・フランクを生み出し、モネ劇場という美しいオペラハウスも有する。エリザベート王妃国際コンクールは優秀な音楽家の登竜門として名高く、チャイコフスキー国際コンクール、ショパン国際コンクールと並ぶ世界3大音楽コンクールの一つだ。日本からも多くの若い演奏家がこの最難関と言えるコンクールに挑み、バイオリニストの堀米ゆず子を始め、多くの演奏家が優勝、入選を果たしている。
その音楽大国ベルギーの駐日大使館でロクサンヌ・ドゥ=ビルデルリング大使とステファン・レーム氏夫妻がピアニストのフィリップ・ラスキンを招き、コンサートを開催した。きっかけは大使夫妻がケニアに滞在中にこのピアニストと出会ったことであったという。ラスキンはブリュッセル王立音楽院でピアノ、室内楽、作曲を学び、多くのコンクールで上位入賞を果たしている。現在はウィーン国立音楽アカデミーで教鞭をとりながら、国際的な活躍をしている。
上記のような経歴を読み、きっと正統派のピアノコンサートであろうと想定していたが、その予想は大きく外れた。この日、ラスキンが演奏したプログラムは、ドメニコ・スカルラッティからブラームスラフマニノフはプロコフィエフ、さらにはジャズ、自作の曲まで「メランコリア」をテーマに旅する形で展開された、非常にバラエティ豊かな内容であった。
最初のスカルラッティによる曲ではあ、ラスキンはまるで鐘のように、ピアノは打楽器と言いたげに弾き、ブラームスではではこの作曲家が望んだような寛大な音で演奏した。ラフマニノフではロマン派の作曲家の曲らしいロマンチックな色合いを見せた。また、チック・コリアへのオマージュとして選んだ曲では目の覚めるような超絶技巧でジャズを演奏している。
祖父母がウクライナとロシア出身というバックを持つラスキンは、この度のロシアによるウクライナへの武力による侵攻にも心を痛めている。その思いを込めて自ら作曲した曲は、ウクライナの歴史と土地、現在の姿を思い起こさせた。曲の冒頭には水が流れるようなフレーズが現れ、それはシュヴァルツヴァルト(黒い森)に端を発し、黒海に繋がるドナウ川を思わせる。続いて現れた荒々しいフレーズは武力によって破壊されていくウクライナの街、人々の生活と歴史そのものだ。彼のピアノはとても雄弁であり、人々を説得させる力に満ちている。
プログラムの最後に選ばれたのは、ジャズの即興曲であった。その自由自在な発想と演奏は素晴らしく、音楽にはクラシック、ジャズなどという境界は何もないと改めて感じさせてくれた。
ベルギーはLGBT、SDGsといった今、現代人が取り組まなければならない課題をリードしている国でもある。音楽でもクラシック、ロック、ジャズといった垣根を取り払い、人々のあるがままの感情と心の動きを表現することを学ぶことができるのだろう。
雰囲気もプログラムもとても素敵なコンサートだった。フィリップ・ラスキンの改めての来日とコンサートを楽しみにしたい。
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