大塚国際美術館を訪ねて:楽しい体験によって世界の美術と美術史を知る
徳島県の鳴門海峡に近い大塚国際美術館は、徳島県のみならず、日本でも知名度の高い観光名所となっている。展示室は地下3階から地上2階、延べ床面積29,412㎡(約9,000坪)を誇るこの大美術館には、世界中の約1,000点に上る名画が展示されている。
この美術館は1998年3月に大塚グループが創立75周年記念事業の一環として、創業の地である鳴門市への恩返しと子どもたちの教育などに貢献する目的をもって設立された。この美術館は観光目的でも楽しめるが、世界の名画を楽しめるという意味では子どもには何よりの情操教育の機会となり、また、美術史を学ぶ学生にはこれ以上ない資料の宝庫でもある。
館内に展示されているのは世界の名画であることは誰もが知る事実であるが、その選定は6名の著名な美術史家によって行われた。このメンバーには元文化庁長官を務めた青柳正規委員長を筆頭に、スペイン絵画の世界的権威でもある大髙保二郎早稲田大学名誉教授など、日本における美術界の重鎮が揃う。そうした美術史家の選定によって選択された世界の名画が展示されていることが基本であり、その名画の数々は大塚オーミ陶業株式会社の特殊技術によって陶板でオリジナル作品と全く同じ大きさに再現されている。

こうした特殊技術によって支えられている大塚国際美術館のミッションは、名画の複製展示にはとどまっていない。失われた名画、戦争などによって散逸、破壊された名画の復元など、学術的な協力も惜しまない。
ゴッホの名作として知られる「ヒマワリ」は現在、世界に12点あるといわれるが、大塚国際美術館には花瓶に入った7点の「ヒマワリ」が存在する。中にはかつて日本にあった幻の「ヒマワリ」が含まれている。この「ヒマワリ」は関西の実業家によって購入、保管されていた。しかし、広島に原爆が投下された同日、芦屋を襲った大空襲によってこの「ヒマワリ」は焼失してしまう。しかし、大塚国際美術館では、残された幻の「ヒマワリ」のカラー印刷画集などを手掛かりに、焼失前の姿を見事に陶板によって復元している。そのほかにも大塚国際美術館は、エル・グレコの祭壇画の複製にも挑み、見事にエル・グレコの祭壇衝立を復元している。またレオナルド・ダ・ヴィンチは名作「最後の晩餐」においては、とても興味深い展示がなされている。


レオナルド・ダ・ヴィンチは「最後の晩餐」を描くにあたり、当時、壁画を描くのに一般的に使われていたフレスコ画の手法を使わず、テンペラ画と油彩を組み合わせた手法で描いている。これは繊細な表現と描きなおしが可能なために取り入れた手法であると想定されるが、テンペラ画には温度や湿度によって劣化しやすいという弱点があった。劣化はダヴィンチが存命中からみられ、後年、なんども大規模な修復が行われた。その後、20世紀になって科学に基づく大修復が行われ、「最後の晩餐」はオリジナルの姿を取り戻す。ここでは、かつて人びとが見てきた修復前と、現在の修復後を同時に展示し、その歴史を改めてみることもできる。

大塚国際美術館はこうした美術史上の重要な役割を担っているとともに、多くの人々に「美術館」=「楽しさ」という点で門戸を開け放っているということも興味深い。
大塚国際美術館を訪ねると、本当に多くの若い世代が鑑賞していることに気づく。その世代はこの美術館を心から楽しんでいるように見受けられた。その要因の一つには、大塚国際美術館の広報的な試みによって、美術館がより楽しめる場所になっていることにある。
その一つが衣装や小物を身に付けて絵画の登場人物になれる体験型イベント「#アートコスプレフェス2026@大塚国際美術館」ではないか[2026年7月18日(土)~11月8日(日)]。この試みは、過去の人気作から新作まで10作品をピックアップし、鑑賞者がコスチュームを身に着けて「絵画になりきる」ことだ。「名画になりきる」にあたり、鑑賞者はより名画の詳細を知り、理解を深めていく。堅苦しく、退屈と誤解されがちな美術館は、実は知識の宝庫でありとても楽しい場所だというイメージを、この体験を通じて多くの人びとに与えていく。楽しい体験をした若い層は、美術館を身近で楽しい存在として受け止め、これからも美術館へのアクセスが気軽なものとなっていくことだろう。老若男女を問わず、このコスプレを楽しむ人々に思わず目が行った。


人生の楽しみとして世界の美術館を訪問してきた70代を迎えたという鑑賞者は「ここは私の人生が全部詰まった場所」と語る。名画を新たに鑑賞すること、また、かつて鑑賞した名画に会えること。そのすべてが大塚国際美術館ではかなう。世界の名画に触れることがどれほどすばらしいかを改めて感じる徳島の一日を、多くの人びとに体験してほしい。

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